第三章 もう一人の調査員

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 きっとそうだ。あの女の旦那さんも妻の浮気に気付いて、そしてどこかしらの探偵事務所に調査を依頼したんじゃないか、きっと。 そう思うとすべての合点がいく。  あのレストランに自分が入った時にすでにあの人はいたんだ。それは、女の方を尾行していたからに他ならない。男をつけてきた自分と女をつけていたあの男。だからここで、女の住まいの前で鉢合わせたんだ。  虎之助は、なぜかウキウキと気分が高揚してきた。  これまでの3年間の間でしてきた調査、数は忘れてしまったが、よその調査員と鉢合わせるなんて経験がない事だけは覚えている。 「こりゃおもしろくなってきたぞぉ!」 思わず声を上げてしまった虎之助。周りに人がいなかったことがなによりだ。  とにかく写真を撮って、引き上げるとしよう。かえって所長に報告したら、所長も面白がって、もしかしたらたまには尾行を交替してくれるかもしれない。そしたらちょっとは楽になる、と都合よく考えながらニヤリと笑う。  手にしたままでいたスマホでマンションや周りの風景を撮る。エントランスに近づきマンションの名前を確認してから地下鉄の駅へと足を向けた。
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