第三章 もう一人の調査員

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 プンプンと怒っている虎之助に弥生は手をひらひらさせながら薄く笑った。 「そういう意味じゃなくって、調査員なのに周りに存在感を与えてしまうってことがおかしいって事を言いたいわけ。探偵まがいのことをするんだから、周囲に感づかれやすい格好で張り込みなんか、しないと思うのよね」 「じゃあ・・なんだっていうんですか?」  探偵事務所の所長の言うように、存在感や特徴をすぐに察知されてしまうようでは張り込みにふさわしくない、というのは虎之助にも理解できる。 自分に当てはめてみよ。極力地味でありふれた格好をしているし、デカい一眼レフなどは写真を撮る寸前までリュックに入れて周囲から注目されないようにしているではないか。だからって、今日いたあの男が調査員ではない、というのもこれまたわからない。  納得のいかぬ表情で冷めたたこ焼きを串で突き続ける虎之助に、弥生が新しく入れたお茶を差し出した。 「まあ、まだ1回目の張り込みでしょ?どれが継続だかどれが偶然だかまだわからないじゃない?とにかく、次の張り込みの時にはもう一つの確認、その男の存在もチェックしてみることね」  わかりました、と熱いお茶をすする虎之助。瞼の裏に今も焼き付いているあの猫の人形を、再び見る可能性はどれくらいあるのだろうか。あのリュックの男。今の虎之助にとって浮気調査よりも気になって仕方のない存在となった事は間違いない。
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