第一章 石の上にも三年経った

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 週の初めから早々に虎之助は、探偵事務所の仕事をおおせつかった。というよりは押し付けられた。 「季節の変わり目ってさぁ、気温の変化が激しいから体がついていかないのよねぇ。中年になるとほんと、体に堪えるのよ」  だから所長は、張り込みのほとんどを虎之助に任せると言うのだ。 「金曜日にたっぷりお肉食べたから力もついたでしょ?元気の源は肉よ、肉。柳くんの体の中にはたっぷりと元気が注入されたから頑張れると思うわよ」  あれは・・こういうことの前振りだったのか。  純粋に、自分へのご褒美なんだと喜びと達成感に浸っていたのに。  だけど虎之助に異議を申し立てる隙はこれっぽっちもない、とわかっている。張り込んでこそ探偵という教え、そしてご馳走。文句などどうして言えよう。  渋々の気持ちをひた隠し、テーブルの上の依頼書を手に取ってみる。  相変わらずの不倫調査だ。
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