夏の夜の不思議な出会い

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 ドーン、ドーン・・・  花火が打ち上がる。みんな楽しげに笑ってる。私は鼻緒が切れて、親とはぐれて泣きそうになってる。最悪なことばかりで、買ってもらった水風船も割れて、足元が冷たいの。 「だ、だれ・・・」  助けを呼ぼうとしたとき、狐のお面を被った少年が手を差し伸べて近づいてくる。背格好は私よりもお兄さんみたい。7歳の私にとっては不思議で、真夏の夜に別世界に連れて行かれると怖くなる。 「いや!!」  少年の手を振り払う。初対面の狐のお面を被った少年は、何も言わずにかがみ込む。なんの反応もしない少年を半妖だと思い始めるのは、ファンタジーアニメの見過ぎだ。 「いいよ。歩け・・・」  鼻緒が切れて泣いてしまいそうだった私。今は優しくて不思議な少年に好奇心が湧いて、不安がなくなっている。 「重くない?」  こくりと頷く少年、お面を外したくなるけれど、やめたのは前方に母親たちが見えたから。 「おかあさーん!!」  少年はゆっくり腰を下ろし、私の足が石畳につく。お母さんが近づいてる。狐のお面を被った少年は片手をひらひらさせて、風のように走って行く。 ※※※※ 「お狐様じゃよ」 「お狐様にお礼を言いたいな」  狐が神社を守るよう石像が四隅に建てられている。おばあちゃんいわく、お狐神社には小狐が人間に化けて、お祭りに遊びに来てる。 「お狐様、孫がお世話になりました」  おばあちゃんと一緒に神主さんに【油揚げ】を奉納した。おばあちゃんと手を繋いで思い出す。石段を一段ずつ降りながら、手の甲を見る。ない、別れる前には確かにあったのに・・・ 「どうしたんだい?」 「おばあちゃん、あのね」  ヒューと風が吹く、狐のお面を被った少年と別れた時と同じ風が流れる。麦わら帽子が風に舞い、神社の中の木々が揺らぐ。木々の上にあの少年はいた。私の麦わら帽子が彼の元に辿り着く。両手で大切そうに麦わら帽子を抱き寄せくちづける。 「な、なんでも・・ないから」  私の顔は真っ赤になり石段を早足で降りて行く。不思議な真夏の夜の初恋は、おばあちゃん以外秘密だよ?
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