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蒸し暑さに目が覚めると、草木が生い茂る場所に倒れていた。おそらく山中だ。
「な、なんだ、ここは?」
元村隆は、まわりの異様さに目を見張り、跳ね起きる。
夜だった。しかし、月明かりが照らしてくれるので暗さはそれほど感じない。星々が、これまで見たことがないほど輝いていた。
夏の夜――こんなに美しい星空なんて、生まれて初めてだ。
しばし見とれてしまった。だが、そんな場合ではないと思い直す。
俺は、どうしたんだっけ?
自らの体を確かめる。ユニホームを着ていた。
そうだ、試合中だったはずだ。
元村はプロ野球チーム、ツイスターズの選手だ。今日はセリーグ首位を走るタイタンズとの試合で……。
気を失う直前の場面がフラッシュバックする。
相手チームの投手がなぜか乱調だった。元村の打席もボールが先行し、その4球目……。
デットボール。頭部に直撃。目から火花が散ったかと思うと、すぐに気を失ったのだ。
なのに、なんで病院じゃなくてこんな所にいるんだ?
キョロキョロとする元村。ズキン、と頭が痛む。手をやると、メットをかぶったままなのに気づき奇妙に感じる。足下にはバットも転がっていた。それを手に取る。
元村はリーグでも指折りの強打者だった。トレードマークとなっているのは、通称「物干し竿」と呼ばれる長いバットだ。伝説の強打者、初代ミスタータイガースの藤村富美男にあやかっていた。
突然、がさっ、と草木を踏みしめる音が耳に飛び込んでくる。
目をやると、変わった服装、まるで侍みたいな男達が三人立っていた。
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