余命宣告

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「旅に出ようと思う」 そう宣言した敦の瞳は希望に満ちていた。聞けば街角で知らない女に突然余命を宣告されたという。 「いや、ヤベー奴の話とか欠片も信じてないけどさ、いつか死ぬなら今しかできないことしたいじゃん」 その足で学生課に休学届けを出したというのだから恐れ入る。道程で童貞卒業できるといいな。生ぬるい扇風機の風にあたりながら缶ビールを傾けると、敦は膝を打って笑った。 敦の旅は順調に見えた。世界のデカさを伝えたいと開設されたインスタのアカウントには夕日や海辺の街並みなどの写真が並んだ。スマホの画面越しに伝えられるリアルに、進まないレポートを打つ指先でいいねを押し、たまにコメントを残した。 おや、と投稿をスクロールする手が止まる。まただ。敦のインスタに女性の存在が感じられる投稿が並ぶようになって久しい。 『彼女自慢うぜー、童貞卒業おめでとう!』 自撮りをする敦の後ろから彼女がおぶさる写真にコメントを残すと、すぐに着信があった。 「だから……って」 ザザ……、ザ……不意にスマホの電波が乱れる。声が遠い。スマホを耳に押し当てる。 「今度彼女の顔が分かる写真送れよ」 「だからず……と一人…… 女とかいるはずないん……」 頼むよ、お前まで変なこと言うなよ。途切れ途切れの涙声に言葉を失う。ではあの写真は。問い返そうとすると あはははははは 突然耳元で女の笑い声が響き、通話が途切れた。 三週間後、敦の遺体が発見された。窒息死だった。口の中には髪の毛が詰め込まれていたと聞いた。喉には掻きむしった跡があったそうだ。 写真を見返したくても、インスタのアカウントはあれから何度検索しても見つからない。 「あんた、一年後に死ぬよ」 大学からの帰り道、突然俺の腕を掴んだ女はそう言ってにたりと笑った。瞬きをする間に女の姿は消えていた。じっとりと汗ばんだ手のひらに絡みつく長い髪の毛を残して。 あはははははは 耳元で耳鳴りのように女の声が響いた。
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