初カレ

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初カレ

「あ、あのさ、好き……なん、だけど……」 私は手に汗握りながら通話越しに言葉を紡ぐ。 人生で初めての告白。 学校帰りに友達と遊んでいたら話の流れで電話で告白する流れになってしまい、今に至る。 友達は離れた所から見守ってるね、と離れていった。 何度か彼とは電話したことがあるけどこんなに緊張するのは初めてだ。 口にした言葉はもう取り消すことが出来ない。逸る鼓動を聴きながら、私はじっと返事を待っていた。 その沈黙がとてつもなく長く感じて、頭がクラクラする。 『俺も、お前のこと……前から好きだった。だから、その……』 スマートフォンを握る手に力が入る。 『付き合おう……』 電話越しでも分かるくらいに彼は照れていた。 離れた友達にグッドのハンドサインをすると友達は嬉しそうに駆け寄ってきた。 これが私の初めての彼氏が出来た瞬間だった。 * 「麻結、おめでとうー!!」 「えっと……、何が?」 朝、登校して顔を合わせるなりニヤケ顔で私のことを待っていたのは親友の梨々花だった。 「もう、水くさいな~」 梨々花がバシバシと私の肩を叩く。 何やらかなりテンションの高い様子。 ちょっ、痛いんだけど。力いれすぎじゃない? 何かいいことでもあったのかと聞くと、梨々花は私に向かって指をさす。 「麻結、カ・レ・シ出来たでしょ?」 「っ……なっ!?」 なんで知ってるの? 私はまだ誰にも言ってないのに。 「しかも相手はB組の高木祥!!」 「なんでそこまで知ってるの!?」 私は教科書を出すことすら忘れて身を乗り出し梨々花に詰め寄った。 「なんでって真衣と綾から聞いた」 真衣と綾は昨日一緒に遊んだクラスメイトだ。つまり告白しなよってけしかけた張本人達である。 きっと誰かに言いたくてうずうずしてたんだろうと二人の姿が目に浮かぶ。 誰と誰が付き合ったとか別れたとかって話はあっという間に学年中に広まるのだ。 「電話で告ったんでしょ?話の流れとはいえ麻結って意外と大胆なんだね〜」 柄じゃないのはわかってる。 私は基本的に目立たず平穏に物事を端から見守ってるタイプの人間だ。 「意外ってなにさ。梨々花はモテるからって……」 そう。梨々花はモテる。 多分だけど告白した回数より、告白された回数の方が多いと思う。 同性からも告白されたことがあるとかないとか。気づいたら彼氏が変わってたってことも何回かある。 今はラブラブの彼氏がいるみたいだけど。 だから、私にとっては恋愛の先輩ってわけで。 「お願い! 私に恋愛指南して」 私は梨々花に頼み込んだ。 「まっかせなさ〜い! そのかわりスタパの新作一杯ね!」 「ありがとう! 緊張して話せなくなりそうで、困ってたんだよね」 「まぁ麻結奥手だもんね」 恋愛経験ゼロの私。 何を話していいか分かんなくて、昨日は早々に電話切っちゃたんだよね。 よしっ、私も梨々花みたいにラブラブになれるように頑張ろう! 私は固く決意した。 でも、その固い決意もすぐ崩れることになる。 ――――次の日。 「麻結、おはよ~って、どうしたの?」 「あはは……。ちょっとね」 私は少し沈んだ顔で梨々花を見る。 「そ? そういえば、昨日一緒に帰ったり話したりした?」 付き合ったらまず一緒に登下校して、帰り道デートみたいなのが普通の高校生カップルだと思う。 けれど梨々花のその質問に私は首を横に振った。 「うそ!? してないの!?」 「いや、挨拶は出来たんだけど……」 昨日の移動教室とか帰りとかに祥とすれ違って、少し話そうと思ったんだけど、挨拶しか出来なかった。 「奥手にも程があるでしょ。まぁ祥もグイグイいくタイプには見えないし……」 梨々花は少し考え込むような素振りをする。 「まぁ付き合ってまだ二日だし、大丈夫でしょ。今日は一緒に帰りな?」 梨々花は軽く私の肩を叩いた。 「でもぉ……」 また話せなかったらどうしよう……。 そんな気持ちばかりつのる。 「うじうじしない!だからダメなんだよ麻結は」 「けどさぁ……」 そんなこと言われても、祥を目の前にすると緊張して言葉が出てこなくなっちゃうし、何話していいか分かんないんだもん。 祥は隣のクラスだし、共通の話題もてんで思いつかない。いくらクラスが違うとはいえ、すれちがったりする機会はある。 目を合わせようとはするものの、照れているのか祥は目を合わせてくれない。 私から告白したわけだし、自分から行かなきゃって思うんだけど、祥から来てほしいって思っちゃう。 小中学生のときは普通に話せてたのになぁ。 中学生のときまではずっと同じクラスで話す機会もよくあった。 それが高校生になってクラスが離れた途端、話す機会がなくなってしまったのだ。 それでもずっと好きだったと言ってくれたということは、少なくとも嫌われたわけではないと信じたい。 「付き合ってるのに話さないなんて、アタシ我慢できないけどな~」 そのとき、梨々花のスマホの通知音が鳴った。 「あ! 茂樹(しげき)からだ! じゃ、麻結、アタシ茂樹のとこ行って来るね」 「え、もうすぐ授業始まるよ」 「すぐ戻るって。あ、麻結も来る?」 立ち上がった梨々花が思い出したようにそう言った。 「もうすぐ授業始まるし……」 「そ?」 梨々花はスマホをポケットにしまい、走って教室から出て行った。 茂樹は梨々花の彼氏だ。 祥と同じクラスのB組で、梨々花にベタ惚れ。回りからはバカップルと言われるくらいラブラブだ。 多分梨々花が声掛けてくれたのも祥のクラスに行くからだろう。 それに比べて私は……。 私も梨々花みたいに自分の気持ちに素直になりたい。 今日は祥に一緒に帰ろうって言えるかな。 一緒に帰りたいなぁ。 そんな私の願いが通じたのかもしれない。 教室のドアの方に祥が立っていた。 祥は少し顔を赤くして私に手招きをしていた。私は慌ててイスから立ち上がり、祥の方に向かう。 「祥、どうしたの?」 「あのさ、今日って放課後なんか用事ある?」 「ううん、特にないよ」 「そっか。俺も部活ないし一緒に帰ろうよ」 「うん! 一緒に帰る!」 私は思い切り頷いた。 「ははっ、食い気味」 祥に笑われて少し恥ずかしかったけど、それよりも祥と帰れるのが嬉しい! 「あ、予鈴が鳴るから、教室戻るな。じゃ、放課後な」 そう言って祥は教室に戻って行った。 そしてしばらくして、梨々花が戻って来る。 「ねぇ、麻結~、聞いて聞いて~! あのね、茂樹ったらね、みんなの前で大好きって! もう、ヤバイ~!!」 いつものようにハイテンションで惚気けだす梨々花に圧されつつも良かったねと返す。 梨々花ってば顔蕩けそうになってるよ。 でも、そんな梨々花の惚気話を聞くのが好きだったりする。 親友が幸せそうなら何よりだ。 「そいいえば、さっきから気になってたんだけど、アタシいない間に何かあった?」 「え、なんで?」 「だってさっきから麻結、ニヤついてる」 うそ!? 私、ニヤついてた? 「何かあったんでしょ? ほら白状なさい」 私は梨々花の質問にこくりと頷いて口を開く。 「さっき祥が来て、今日一緒に帰ろうって」 「お~!どっちも奥手っぽいから心配してたけど、良かったじゃん。頑張りなよ」 「うんっ」 心強い梨々花の励ましに、私は力強く頷いた。
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