爽やか男子

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爽やか男子

それからも祥の奇行は続いていた。毎日私に会いに来ては好きと告げる。 さすがに慣れてきて祥へのあしらいが上手くなったと、自分でも思う。 好きだった人に好きと言われて無感情になる日が来るなんて思わなかった。 「麻結、好き」 「はいはい。今それどころじゃないから、教室戻って」 実は今日はある約束の日。だから祥にかまってる暇はない。 早くしないとお昼休みが終わっちゃう。 「梨々花、私行って来るね」 「おう。がんばってね〜」 見送る梨々花とは反対に祥は不思議そうな顔をしていた。そんな二人をよそに私は急いである場所に向かった。 「ここかな。屋上って初めて来るなぁ」 ドアを開けて入ると、ある男の人を見つけた。その男の人と目が合う。 「君が梨々花ちゃんの紹介の子だよね? オレA組の木村波斗(きむら なみと)っていうんだけど、知ってる?」 私はその質問に横に首を振った。 「ごめんなさい」 「謝らないで。オレも学年の人皆を把握してる訳じゃないし」 波斗君の第一印象は、爽やか。 優しげな微笑みがとっても可愛く見える。 波斗君って、モテそうだなぁ。 「えっと、私は」 「知ってるよ、沢村麻結ちゃん、でしょ? オレ茂樹の友達でさ、よく梨々花ちゃんとも話すから君の話はよく聞いてる」 そうだったんだ。 「それに実は麻結ちゃんのことよく見かけてたんだ」 波斗君はゆっくり私に近づいた。 「いきなりで本当申し訳ないんだけど……」 波斗君は私のことを見つめた。 「オレ、麻結ちゃんのこと前から気になってて。もし、よかったら付き合ってください」 波斗君の顔はほんのり赤かった。 え、いきなりの告白? 「でも、私波斗君のこと、ほとんど知らないし……」 「そっか。そうだよね、いきなりゴメン」 波斗君は照れくさそうに笑った。 波斗君、可愛いなぁ。 最近、祥と関わってたせいか、とても落ち着く。 「返事はいつでもいいよ。オレのこと知ってから、ゆっくり考えて」 「うん」 その後は、ちょっとした話をしてから教室に戻った。 「で、どうだったの?」 梨々花は私に詰め寄る。 「どうって?」 「波斗君のことよ」 梨々花は興味津々の様子。 「えっとね、いきなり告られた」 「よかったじゃん! 返事どうしたの?」 梨々花は少し興奮気味に言う。 「波斗君のこと、もっと知ってから返事しようと思って。待ってるって言ってくれたから」 私は少し遠くを見た。 「話してみて、優しい人だなって思った。でも、なんか違うって思ったんだ」 私がそう言うと、梨々花は少し声のトーンを落として言った。 「やっぱり、まだ祥のことが好きなんじゃない?」 「違うよ。そんなんじゃない」 ただ、この人じゃないって思っただけだから。 ――――放課後。 「あ、忘れてた。先生に用事あるから先に帰ってて」 梨々花は思い出したように言うと、玄関から飛び出していった。 「行っちゃった……」 しょうがない、今日は一人で帰るか。 私は靴を履き替えると、玄関を出た。 「ま~ゆっ」 ご機嫌な声に呼ばれて、私は振り向いた。 私を呼んだのは笑顔で走ってくる祥。 「ま~ゆっ」 ―――ガバッ 「うわっ」 祥は満面の笑みで私に飛びついた。 私はいきなりのことに驚く。 「麻結、好き」 「え? あぁ、はいはい」 慣れてきたとはいえ、好きだった人だからふいうちだと戸惑ってしまう。 あれ、そういえば今日はこれで二回目だ。 普段は一回なのに。 「なぁ、麻結」 祥の声が少し低くなる。 祥と別れたときのことを思いだして、なぜか悲しくなった。 「……何?」 「アイツ、お前の何?」 「は?」 祥は不機嫌そうに言う。 だけど、誰のことを指しているのか分からない。 「アイツって?」 「今日、屋上で話してたヤツ」 祥はそう言うと、そっぽを向いた。 もしかして波斗君のこと? まさかあの後追っかけてきたのか。 「別になんでもいいでしょ?」 私達はただの罰ゲームの関係でしかないのに。 それ以前に、いつまで続けるつもりなんだろう。 「やっぱり麻結もああいうヤツが好きなのか?」 「は?」 波斗君は今日知り合ったばかりだし好きかどうかは……。確かにいい人だとは思ったけど。 「優しくて、爽やかで、モテてて? 俺とは正反対」 祥は指折りしながら言った。 口調が拗ねたようになっているのは気のせいじゃない気がする。 でも、祥だって優しいところはあると思うんだけど。 いや、なんで私が祥のフォローしてるんだ。 「確かに波斗君って、いい人だよね」 同意すると、祥は私の目の前に立った。 「じゃあ、俺が波斗のように優しくなったら好きになってくれんの?」 「な、なるわけないでしょ!」 私が語尾を強めて言うと、祥は「そっか」と笑って歩いていってしまった。 私は何もしていないはずなのに、罪悪感があるのはなぜだろう。 祥の背中がなんだか寂しそうに見えた。
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