私の好きな人

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私の好きな人

「波斗君」 「ねぇ、もしかして麻結ちゃん、祥と付き合ってたり、する?」 波斗君は不安げに表情を曇らせる。 「付き合ってないよ」 「え、だって抱きしめ合って……」 波斗君の視線は祥の腕に注がれている。 「ち、違うのっ。これは祥が勝手に……」 私が慌てて訂正しようとすると、祥がさえぎった。 「俺達、付き合ってるけど?」 「ちょ、何言って……」 祥の腕に少し力が入る。 祥は不機嫌を隠そうとせずに続ける。 「俺達、ちょーラブラブだから。邪魔だけはすんなよ」 「ちょっと祥! 波斗君、違うのっ」 「うるせーな。ちょっと黙ってろ。それとも、アイツのことが好きなわけ?」 その質問に私は詰まる。 いい人だとは思ったけど、好きってほどじゃない。 しかも、昨日会ったばかりの人だし。友達として好きなだけ。 しかし何も言わない私の態度に肯定と受け取ったらしい祥はため息をついた。 「あっそ。じゃあ、アイツのとこ行けよ」 途端に冷たくなる祥。とん、と私の背中を押す。 「祥……」 祥はくるっと向きを変えて歩き出す。 やだ……。 「行かないで……」 私はポツリと洩らす。 「え……?」 祥は驚いたように振り向いた。行ってほしくなかった。また、抱きしめてほしかった。 好きって言ってほしかった。 あーあ、気付いちゃったよ。 私、まだ祥のことが好きなんだ。 しかも前よりも、もっと好きになっちゃったんだ。 「麻結、今なんて言っ……」 「麻結ちゃん!」 祥の言葉を遮って波斗君は言った。 「オレ、麻結ちゃんのことが好きだ。ずっと前から好きだった」 辺りがしんとなる。 波斗君の気持ちは嬉しい。 嬉しいけど、私は祥のことが好き。 今ならそれをすんなりと受け入れることができる。 「ごめんなさい。私波斗君と付き合うことは出来ない。好きな人がいるから……」 ごめん、波斗君。心の中で私は波斗君に謝り続けた。 「そっか。じゃあ、仲の良い友達ってことで。聞いてくれてありがとう」 波斗君は切なそうに笑いながら走っていった。急に静かになったような気がした。 「なぁ、麻結って好きな人いたんだ」 「うん、いるよ」 「そいつ、俺よりかっこいい?」 「さぁ?」 祥は今度は怒っているらしい。 なんでだろ? 「俺より背ぇ高い?」 「さぁ?」 「頭いい?」 なんだかこのままだと、沢山質問されそう。 「まぁ、いいや。麻結に好きな人がいても、俺が奪うから」 祥は自信満々に言う。 私はなんだか恥ずかしくなって、顔を伏せた。 どうしてそんなセリフをさらりと言えるのだろう? 前までそんなこと言わなかったくせに。 「でも、やっぱムカツク」 そんな祥のつぶやきは麻結の耳には届かなかった。
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