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――――放課後。
学校中に放課後を告げるチャイムが鳴り響く。
「梨々花また明日ね」
「また明日〜! 頑張ってね、麻結」
私は帰りの準備を早々に済ませ、祥のいるB組の教室の入り口辺りで祥を待つ。
「あれ麻結ちゃん? もしかして祥のこと待ってるの?」
そう話しかけてきたのはB組の佐瀬夢香ちゃんだった。
夢香ちゃんは、目がぱっちりしててショートカットのヘアスタイルで可愛い女の子って感じだ。
私はあまり話したことないけど、性格が悪いってウワサをよく聞くから、正直言うと苦手だった。
でもなんで夢香ちゃんは、私が祥を待ってるって分かったんだろう?
「あ、麻結ちゃん今、なんで祥のこと待ってるって分かったの? って思ったでしょ」
夢香ちゃんは少し身を屈めて私の顔を覗きこんだ。
なんで分かるの?
別に声に出して言ったわけじゃないし……。
「結構ウワサになってるよ? 麻結ちゃんと祥が付き合ってるって」
「なんで!?」
確かにそういった情報は学年中に広まる。けれどいくらなんでも広まるのが早すぎない?
もしかして祥が言いふらした、とか?
恥ずかしいけど、それはそれで嬉しいかも。
夢香ちゃんはニヤリと笑ってB組の教室の中にいる祥に向かって叫んだ。
「祥ー!! 彼女の麻結ちゃんが迎えに来てるわよー!」
その途端にB組の教室がざわつく。
「ちょ、夢香ちゃん!?」
私の焦った様子など気にしていないようで夢香ちゃんは満足そうな表情をした。
するとすぐさまB組の人達に囲まれる。
「お、祥の彼女? どれどれ」
「C組の沢村じゃね?」
「ね、告ったのって、どっちから!?」
「どこが好きなの!?」
「祥に聞いてもはぐらかれてさぁ」
等など、質問が一気に投げかけられる。
ちょっ、そんなに一気に訊かれたら聞き取れないよ。
この状況を作った夢香ちゃんは、私の知らない間にどこかに姿をくらました。
「付き合って何日目?」
「み、三日目……」
「デートしたの?」
「まだ……」
「キスした?」
「キ!?」
なおも続く質問。
ど、どうしよう。
これじゃ、祥と帰るどころじゃないよ。
なんで、私こんなに質問攻めされてるんだろう?
祥ってB組でそんな人気者だったの!?
とりあえず私は人だかりの隙間から祥の姿を探す。
そのときだった。
「お前ら、うるせーぞ」
その一声で、一気にその場が静かになる。
その声の持ち主は祥だった。
祥は私の方まで歩いて来て、私の腕を掴んだ。
「ほら行くぞ」
その声を合図に祥は私の腕を掴んだまま走り出した。
祥が助けてくれた。
私は嬉しくて、口許を綻ばせた。
学校を出ると、さっき騒いでいたような生徒はいなかった。
よかった。私はほっと胸を撫で下ろす。
「助けてくれてありがと」
「悪いな、クラスの奴らが」
「ううん、平気」
「そっか……」
それきり祥は黙り込む。
助けてくれたときとは違って、祥はなんだか素っ気ない気がする。私の気のせいかな。
「ねぇ、久しぶりじゃない? 一緒に帰るのって」
「あぁ」
「でも、まだ二回だけどね」
私は、二人きりで帰るという状況で緊張して祥の顔が見れなかった。けど思ったより話せてる。
私と祥は、付き合う前に一度だけ一緒に帰ったことがある。
その日は丁度、学校で嫌なことがあって泣きそうになりながら帰った日だった。
後ろから追いかけてきた祥が励ますように声をかけてくれたのだ。
「お前は泣いてるより笑ってる方がいい」
確かそう言ってたっけ。
あのときはまだ祥と普通に話せてたのになぁ。意識しすぎなのかもしれないけど。
でも、祥の優しさに甘えてちゃダメだよね。
自分から好きをアピールしていかないと……!
「あ、あのさ! 私、こうして祥の隣を歩けるだけで嬉しい。その、ずっと好きだったからさ……」
「お、おう。俺も、嬉しい」
あ、あれ? もしかして引かれた……!?
祥はそっぽを向いてしまった。
でも嬉しいって言ってくれたしめげないでいこう。
「ねぇ、祥」
「あ、あのさ、麻結」
二人同時に口を開いて思わず笑い合う。
良かった笑ってくれた。
「麻結から先に言えよ」
「明日も一緒に帰れる?」
「あぁ悪ぃ。明日は部活があるから……」
祥は歯切れが悪そうに言った。そこでまた祥がそっぽを向く。
「そっか、部活なら仕方がないね」
祥は陸上部だ。
私は祥がグランドを走っている姿をよく眺めていた。
少し歩くと祥が立ち止まる。
「あ、あのさ麻結」
「なに?」
「あ、いや何でもない……。俺の家、こっちだから」
祥はそう告げて行ってしまった。
途中から祥の元気がないように見えたけど気のせいだったのかな。
そういえば結局祥が言いかけたことってなんだったんだろ?
言うかどうか悩んでる、そんな感じだった。
少し気になりながらも家路についた。
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