電話

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大会があると知ったこの日の夜のこと。 私はお風呂から上がってジュースを口にする。 風呂上がりのジュースってどうしてこんなに美味しいのかしら。なんて思いながら自分の部屋に戻ると、丁度私のスマホが鳴った。 この音は電話かな。 スマホを手に取ってディスプレイを見ると祥からだった。 祥から電話が来たことに舞い上がり、胸を高鳴らせつつ電話に出る。 「もしもし、祥?」 『……』 返事がない。 もしかして電波遠い? 「もしもし?」 『……急にごめんな』 「大丈夫だよ。どうしたの?」 大好きな恋人の声を聞いて再び心臓が跳ねる。 『あのさ……』 「うん」 『麻結……』 ためらっているような祥の声に私は不安になる。 祥、どうしたんだろ? ふと先日の何か言いたそうにしていた祥の顔を思い出す。 「祥、何かあっ……」 『別れよう』 「…………え?」 何を言われたのか一瞬じゃ理解出来なかった。それくらい衝撃的な一言だった。 「なん、で……?」 付き合ったばかりだよね? ずっと好きだったって言ってくれたよね? 思ってたのと違ったとか? それとも本当は嫌われてた、とか……? 告白の返事も成り行きでとかだったのかもしれない。 『理由は……今は言えない』 なんで? どうして? そんなんじゃ納得出来ないよ。 「どうして言えないの?」 私がそう言うと祥は押し黙る。 まただんまりなの? 嫌いならはっきり言ってくれればいいのに。 その方が楽なのに。 『これは俺のけじめだから』 「どういうこと?」 祥の言ってることがよく分からない。 確かにうじうじしてた自分も悪かったけど、それでも真剣に向き合っていくつもりだったのに祥は違ったの? 『今はこれ以上言えない』 「なにそれ。私に悪いとこがあったなら言ってよ」 頑張って直すから。 『……本当にごめんな。けど麻結のせいじゃない。これは俺の問題なんだ』 私に言えない祥の問題って何? 「もういいよ。祥、今まで付き合ってくれてありがとう」 『けど信じてほしい。絶対今度は俺から――』 私は祥の言葉を最後まで聞かずに通話終了ボタンを押した。 これ以上言い訳なんて聞きたくなかった。 ただせめて別れるなら祥の本音が聞きたかった。 けじめか何か知らないけど別れることが祥のためになるなら、もうそれでいい。 「あはは……別れ、ちゃった……」 私はベッドに倒れこんだ。 目頭が熱くなる。鼻の奥がつんとなる。 「短い夢……だった、なぁ……」 気がつけば、目から沢山の熱い雫がこぼれ落ちていた。 「うぅ……ひっく……ひっく……」 好きって言ってくれて嬉しかったのに。 私のせいじゃないって祥は言ってたけどやっぱり私のせいなのかな。 そういえば、この間から私、泣き言しか言ってない気がする。 そりゃ、付き合って一週間も持たないのも当たり前だよね。 「ひっく……うぅ……」 考えれば考えるほど溢れ出てくる涙を止めることは出来なかった。 ああすればよかった、こうすればよかった。 そんな後悔とともに夜は更けていった。
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