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会いたくない
物って、使わないときは簡単に見つかるのに、必要なときに限って見つからない。
人のウワサをしていると、その人が目の前に現れたり、会いたくない人に限って何回もすれ違ったり。
タイミングって不思議だよね。
*
「沢村このノート、職員室に運んどいてくれ」
国語の先生にノートを渡された。
ざっと見て一クラス分の三十冊。それだけの量のノートは意外と重い。
「それ運んでくれたらご褒美をあげよう」
「本当ですか!?」
先生にしては珍しい。キャンディとかだったりして。
ポケットに飴やらお菓子やらを隠してる先生は意外と多い。
「ご褒美はプリント三十枚でどうだ?」
「三十枚!?」
そんなにできるわけないじゃないの!
私は心の中でつっこんだ。
「ウソだよ。じゃ、よろしくな」
先生は私の頭に手をポンと置いてから、笑いながら歩いていった。
そうだったこういう先生だったわ。期待して損した気分。
さて、職員室に行こっか。
私は一人ノートを抱えて歩き出した。
ふと、前の方を見ると楽しそうに話しながら歩いてくる男子の集団があった。
……はぁ、最悪。祥もいるじゃん。
私が会いたいのに会いたくない人。
まだ祥のことが好きだから、姿を見るのが辛い。
ざわざわ騒がしい廊下。私は祥の横を通り過ぎる。
祥は私に見向きもせず歩いていった。
そりゃそうよね。
……なんであたし、こんなに祥のことばっかり考えてるんだろ。
終わったはずなのに。
そんなことを考えるのは何回目だろう。
祥と終わったのも事実で、祥に好きな人がいるのも、理由を教えてくれなかったのも事実で。
忘れるべきなのはわかってるんだけど。
「そんなこと言ったって、仕方がないでしょ? 好きだったんだから」
梨々花はなんてことないように言う。
「そんなこと言ったって……」
何回もすれ違うんだもん。
付き合う前や別れる前と違って。
しかも、気まずいし。
「あーもう。うじうじしない! 引きずるのはやめたんでしょ?」
「え、あ、うん……」
引きずらないって決めてただけに、歯切れの悪い返事になる。
すると、梨々花はいきなり立ち上がった。
「麻結! こうなったら、アタシが誰か紹介してあげる」
「え? いや、私は別に……」
私は梨々花から目を反らし、そろそろと後ずさる。梨々花はそんな私を追い詰める。
「麻結? 逃・が・さ・な・い・わ・よ?」
「ひぇ〜!」
「そんで祥よりもいい感じになって見せつけてやりなさい。男の子には一番効く薬よ」
そんな梨々花の復讐? 作戦によって私はある男子と会うことを約束させられた。
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