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スキスキウソツキ
B組の前を通るたび、私は悪口を言われるようになった。
その中心人物は、佐瀬夢香。
笑顔で話しかけてくれた彼女はどこへやら。
私何もしてないし。祥とも別れたのに。
なんで悪口言われなきゃいけないの?
大体罰ゲームの内容自体おかしいと思うんだけど。
そのせいで、夢香ちゃんに睨まれるし……。
……あれ?
私は何かが引っ掛かったような気がして足を止めた。
祥は夢香ちゃんが好きで、夢香ちゃんも祥のことが……。
あーあ、邪魔者は私の方じゃん……。
もし二人が付き合っていたとしてもどうだっていい。
だって私には関係ないから。元々ウソでできた関係だから。
「私、まだ仕事残ってるから先に帰ってて」
「分かった。頑張ってね、麻結。じゃ、バイバイ」
「バイバーイ」
梨々花に手を振り返した。
私は今委員会の仕事をしている。って言っても、どちらかといえば先生のお手伝いだけど。
「先生、コピー終わりました」
そう言って私は先生にプリントの束を渡す。
「よし、ごくろうさん。じゃあ、次はこっちをお願いな」
バサバサとたくさんのプリントをまた渡される。
「まだあるんですか?」
「うん。あと五十枚くらいかな」
「五十枚!?」
絶対この学校の先生達は鬼だ。そうに違いない。私はまた印刷室へと歩きだした。
「はぁ、すっかり遅くなっちゃったよ」
先生のお手伝いが終わって学校を出たら、六時を過ぎたあたりだった。
空は暗くなり始め、街灯もつき始める。
「さて、帰ろっか」
なぜか今は、この薄暗さが心地いい。一人で帰るのも悪くないかも。
そう思っていると後ろから足音が聞こえた。
この時間でもまだ残ってる生徒いたんだ。
特に気にせず振り向くと、後ろの人と目が合った。
私は反射的に前を向く。
なんでよりによって、今ここで祥と会うの?
最悪……。思わず泣き言を漏らしそうになる。気まずさもあるけど、とにかく会いたくなかった。
どうか話し掛けてこないで。そう願いながら早足で歩く。
「なぁ、麻結」
私の願いは届かなかったらしい。なぜか祥は話しかけてきた。
「……何」
「最近さ、調子どう?」
隣を歩こうとする祥から少し距離を置いて歩く。
最悪ですけど、誰かさんのせいで。
私は祥の質問を無視して歩き続ける。
「今日の集会も校長先生、話長かったな」
だから? いきなり何の話?
「俺、体育の時間にまたケガしたんだよ。最近、あちこち痛くてさ」
夢香ちゃんにでも看病してもらえば?
「ケガしてたけど俺、マラソンで一位とったんだ」
…………。
何が言いたいんだろう、この人は。
妙に必死になってる気がするけど、私じゃなくて夢香ちゃんに言えばいいのに。
本気でそう思う。
何も言わない私に祥はしびれを切らしたらしい。
祥は私の腕を掴んだ。
「……何」
「あれから話せてなかったからきちんと話したい」
そう言われてしまえば断りにくい。
「話って?」
「あのさ、虫がいい話なのはわかってるんだけど俺、本当に麻結のこと好きなんだ」
「は?」
「だからもう一回付き合ってほしい」
祥が好きなのは夢香ちゃんでしょ?
これも罰ゲームなわけ? 趣味悪すぎるでしょ。そういうことは夢香ちゃんに言えば?
「なんでそれでまた付き合うと思ったの?」
「だってお前まだ俺のこと好きだろ?」
自意識過剰? ナルシスト?
「好きじゃ、ないし」
「えっ。いや、嘘つくなって」
「嘘じゃないから」
意味わかんない。
なんでそんな悲しそうな顔してるわけ? 辛かったのこっちなんだけど。
そもそも自分から別れようって言ったくせに。
「俺、本当に麻結のことが好きだから」
「そうだとしても、絶対付き合わないから。罰ゲームだったくせに」
「なんでそれ……」
途端に口ごもる祥。
ほら、やっぱりそうだ。
この男に対して好きもつらいも通り越して怒りすら覚える。
すると祥は決意したように、私をまっすぐ見る。
「とにかく、俺は諦めないからな」
祥はそう言って走り去っていった。
……はい? いやいや、意味わかんないし。
だって祥は夢香ちゃんのことが好きで、私のことをフッて……。
こんなこと思っちゃダメなのに。怒りするあるのに。どうしよう、なんでだろ。
すごく嬉しい……。
いや、全然嬉しくない!
祥はウソつきだから、きっと今のもウソ。
私相手に本気になるわけない。
私は祥が走り去っていった方をしばらく見つめていた。
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