つきまとう好き

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つきまとう好き

「ふぁ〜、眠い」 これで今日十回目のあくび。 「麻結、授業中寝ないでね。行ってらっしゃーい」 「行ってきまーす」 お母さんはいつものように玄関で私を見送った。 それにしても本当に眠い。寝ちゃったらどうしよう。授業って一つ一つ長いしなぁ。 ってか、ちゃんと眠れなかったのは祥のせいだもん。 祥が変なこと言うから。私は悪くない。 今日は嫌でも祥と会うだろうなぁ。 私はため息をついて学校の中に入った。 「あ、麻結おはよう」 後ろから、そう声を掛けられる。 私にとって、学校での一番最初の挨拶は梨々花だ。普段の私ならここで笑顔の挨拶をする。 でも、今日は……。 「…………」 「え、ムシすんなよ」 「…………」 「なぁ、きーてる?」 目の前にいたのは祥だった。 私は見なかったことにして、また歩き出す。 「おい、ちょっと待て」 「……何?」 私は立ち止まって祥を見る。 「返事くらいしてよ。麻結の声聞きたい」 はぁ!? 祥、頭大丈夫? 急にどうした、ってくらいの発言に私は耳を疑った。 昨日の放課後までまともに話さなかったくせに急になんなの? そのセリフ付き合ってたときに聞きたかったよ。 ここはやっぱり無視しといたほうがよさそう。 祥は祥に捕まる前に走って教室に向かった。 「ちょっと、梨々花!」 私は教室に入ってすぐ梨々花のところに向かった。 もしかしたら梨々花が祥に何か言ったのかもしれない。じゃなきゃあんな祥は有り得ない。昨日のこともきっとそうだ。 「麻結? どうしたの、そんなに急いで」 梨々花は机の上に広げていたノートを片付けた。 「梨々花、祥に何か言ったでしょ?」 「何かって?」 「とぼけないで。さっき祥が『返事くらいしてよ。声が聞きたい』って、私に言ったんだよ!?」 梨々花が関係してるんじゃないかと私は思ったんだけど。 梨々花の表情から違うってことが分かった。 「祥がそんなこと言ったの?」 「言った」 「それに昨日から祥の様子がおかしい、ていうか変わったっていうか」 どっちにしても、祥の本心が分からないんだから期待しない方がいい。 というより、祥のことを好きじゃなくなりたい。 「麻結、昨日何があったか聞かせて」 「あのね、委員会が終わったあとの事なんだけど……」 私は昨日の出来事を梨々花に話した。 「祥、本当は麻結のこと好きなんじゃない?」 梨々花は事も無げに言った。 「ないない」 私は横に手を振る。 「ないとは言い切れないでしょ?」 「そうだけど、そうだとしてもじゃない?」 「たしかに〜。今更なんだって話よね」 そうそう、と首を縦に振る。 「けど、本当に祥が麻結のことが好きならヨリを戻すのはアリだと思うな」 「え゛」 「梨々花、あんな奴忘れちゃえとか見せつけてやれとか言ってなかった?」 「麻結のこときちんと想ってるなら話は別。だって麻結に幸せになってほしいからね」 梨々花は優しく微笑んだ。 「ありが……」 「でも、ちゃんと紹介する男子と会うこと! もう約束しちゃったし」 あぁ、やっぱりそれは決定なんだ。 そこで梨々花は、ふと目線をドアの方に向けた。私もつられてドアを見た。 あ……。 「あなたの元カレさんがいますよ」 「あぁ、いますね」 私は感情を込めずに言った。 「え、それだけ?」 「何が?」 「祥のとこに行かないの?」 「なんで?」 なんとなく理由は分かってるけど、あえてきく。 「明らかに麻結のこと待ってるよ?」 ですよねー。 さっきから視線感じると思ってたんだけど。 「行かない。行ってどうすんのさ」 「本当に麻結のこと想ってるのか見極めてきたら?」 「もう付き合う気ないのに?」 そんなことないでしょ、みたいな表情で梨々花は私を見た。 私が完全に吹っ切れているわけでないことを梨々花はお見通しらしい。 「ほら、行ってあげなさい。飼い主に捨てられた犬みたいな顔してるよ?」 言われてみればそう見える。 「かわいそうに。飼い主を待ってるんだね」 私は泣き真似までしてみせる。 「いや、あんたを待ってんのよ」 チッ。梨々花には効かなかったか。 「……しょうがないなぁ」 私はしぶしぶ立ち上がると祥のところに向かう。今更何の用だってんのよ。 祥は目を輝かせて私のことを待っていた。 なんか、この前と全然キャラが違うような。 「麻結」 「何の用な」 「好き」 「はい?」 なんの脈絡もなく言った祥。 いきなりすぎてどう反応すればいいのか分からない。 そればかりか混乱してきた。 何か企んでるのかと考えてしまう。 そんな私の焦りが顔に出ていたのかもしれない。 「可愛いな」 祥はそう言って私の頭を撫でた。 「ちょっと、何すんのっ」 私は祥の腕を振り払った。 「可愛かったから、つい」 この人誰!? キャラが違いすぎて頭がパンクしそうだ。 「俺、我慢しないことにしたから」 は? 我慢って何? 「それと照れると素っ気なくなる癖も直すな」 え、なんの報告? 「俺諦めないって言ったよな」 「そうだっけ?」 私はしらばっくれる。いちいち真に受けてたらきりないし。 「信じてねぇみたいだから、毎日好きって言いにくるわ」 「はい!?」 な、なんで!? 毎日来るの!? どうしてそうなった? 「いらないっ、いらないっ」 私は慌てて首を横に振る。 私のことフッたくせに、何言ってんだコイツは! 私にどうしてほしいわけ? 開いた口が塞がらないとはこういうことなんだなと身をもって知った。 「授業始まるから、じゃあな」 「え、あ、ちょっと!」 祥は言いたいことだけ言ってさっさと教室へ戻っていった。 これも罰ゲームの内容なの? 好きな人が他にいるのに、よくこんなことができるなぁ。さすがに毎日来られるのはめんどくさい。 「祥は何がしたいんだろう?」 私はポツリと呟いた。 私と会話していた祥の耳が赤く染っていたことなんて誰も気付かなかった。
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