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期末テストを終え、暦上では立秋を迎えた。とはいえ、何処にも小さい秋など見当たらず、これからが夏本番と言いたげに鳴く蛁蟟と肌に纏わりつく湿気のせいで嫌でも夏だと認識させられる。
今日も今日とて例年通り気候を言い訳に、宛ら樹懶のようにソファで転がっていたかったのだがそうもいかず、俺は渋々夏季課題に取り組んでいた。
「はぁ……花火大会か」
気怠げに俺が呟くと、美咲ちゃんがこくこくと頷いた。真希ちゃんは自身の課題の手を止め、冷め切った瞳でギロリと音がするほどに睨みつけてくる。……それどこで習ったの?
「えっと……、もしかして玲さん花火嫌いでしたか?」
美咲ちゃんは翳のある表情を浮かべ俺を見つめてくるが、正直それより真希ちゃんの視線の方が問題だった。いや、マジ怖ぇから。
「い、いや、全然嫌いじゃないよ!むしろ好きな方っつーか。ちゃんと保護者として着いてくから!だからさ……その眼やめてよ真希ちゃん」
彼女達の中学では夏祭り等の夜間のイベントは保護者同伴が推奨されており、真希ちゃんの保護者役としてついて行く事は元より決まっていた。
「最初からそうしとけばいいのに」と言いたげな真希ちゃんの視線にダメ押しで一声。
「スゴイタノシミー、マチキレナイヨー」
大根役者がやった方がまだマシだろうってくらいの棒読みだった。そして、再び注がれる凍死しそうな冷たい視線。美咲ちゃんに助けを求めると、美咲ちゃんも頬を膨らませて少し拗ねていたが、ただただ可愛いかった。
※ ※ ※
花火大会、それは言うまでもなく日本の夏の風物詩だ。元来、花火は将軍や大名が嗜むものだったが享保の大飢饉をきっかけに大衆に広まり今日に至る。……ちなみにイタリアでは十四世紀頃には既に花火があったらしい。これ豆知識な。
そう聞くと意外にも歴史が浅い事に驚きを禁じ得ないが、そこは日本人の凝り性というか職人気質というか。そういったものが日本の花火に派手さと繊細さを兼ね備えさせ、文化に定着させたといつだったかニュースでやっていた。
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