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俺も例に漏れず、庭で一人花火大会をする程度には好きだ。
だが、少し待ってほしい。別に家でもベランダから花火は見えるし、なんなら音だけ聞くのも除夜の鐘チックでお洒落だ。
それに、わざわざ花火を見に行っても処々でイチャつくカップルがぎゃーすか騒ぐのを他所に縁日で散財し、後悔するのは容易に想像できる。ソースは俺。てか、イベント毎に相手が変わるカップルはぶっちゃけ引く。
閑話休題。
果たしてそれが本当に花火を楽しんでいるといえるだろうか。花火を楽しんでいるはずの彼らの目には交際相手だけが映っていて、花火も縁日も背景でしかないのではないか。
そう考えるとほら、なんていうの。蜩の声を背景に花火の大輪が咲き誇るのをベランダから眺めている、とかの方が財布にも優しいし高校二年生の夏夜に相応しいんじゃないかな。
とはいえ、残念なことに彼女達は高二じゃないし、妙に朝日はノリノリだしでこの感覚は誰とも共有できないだろう。てか、朝日が行くなら俺いらないじゃん……とは気づいたが、そういうわけにはいかないらしい。
※ ※ ※
真希ちゃん達を宥めるために冷蔵庫から紅茶寒天を出し、俺は物理の問題と再びにらめっこを始めた。
理系を捨ててる俺としては解答を写せたら楽なのだが、真希ちゃんが持っているせいでそういうわけにもいかない。
ふと二人の様子を見てみると、真希ちゃんは黙々と理科の問題を解き続け、美咲ちゃんは手が止まっていた。
「あ、あの……これって玲さんだったらどう書きますか?」
人に聞くのは不正だと感じたのか、恥ずかしそうに美咲ちゃんが聞いてくる。
「『蜘蛛の糸』か……。たしか読書感想文の書き方の本があったから取ってくるよ」
「あ、お願いします」
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