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件の本を書架から探し美咲ちゃんに手渡す。
——そのとき。
中に挟まっていたのか一切れの紙が開け放たれた窓から吹き込む季夏の風に誘われ、はらり、と床へと舞い降りた。言うまでもなく俺の読書感想文だった。
「……なんじゃこりゃ」
なんとも言えない怖気の走る文だが何処か既視感がある。もちろん自分が書いたから当然と言えば当然だが、ここまで違和感に塗れていると巷で話題の怪文書を彷彿とさせた。
とはいえ、残念なことにオチというほどのオチもなく、単なる支離滅裂なポエムというべきか。ピカソのキュビズムとは違い、メッセージ性は持たないくせに矛盾だけは多く持ち破綻したそれは端的に言ってゴミだった。
ローラータイプのスタンプで名前を隠し、シュレッダーにかけると瞬く間に細かくなった。それをゴミ箱に叩き込む……これでよし。清々しい気分でリビングに戻ると、二人ともキリのいいところまで課題を終えたらしくいそいそと身支度を始めていた。
※ ※ ※
俺は待ち合わせ場所である海の公園柴口前で、瓶ラムネを飲み干すと辺りを見渡した。自販機で水を買う方が安上がりだが、まぁ夏祭りだし財布の紐も緩むだろう。
そういえば、『柴口こ○みのおいしい水』はどこかエロエロしいように思う……なんてことを考えていると、不意に肩を叩かれた。
振り向くと頬に当たる白魚のような指。……その先を見ると、どこか恥ずかしそうに上目づかいでちらちらと見てくる美咲ちゃんがいた。
「……あ、美咲ちゃんか。そいやさー朝日達見てない?」
きっとカップルを見てやってみたくなったか少女漫画か何かで見たに違いない。それに、あえて触れるほどの奇行でもない。精々「すっげー、俺めっちゃ空気読めてんじゃん!やっぱそこらのチャラ男と違うわー」と内心こっそりと自賛するくらいだ。
「え……と、兄はイカ焼き買いに行きました」
……あいつ放棄するの早過ぎだろ。ノリノリだったのは一人で周れるからか。てか周るなら誘ってくれてもいいんだよ……なんて考えてたからだろう。さっきぶりの凍てついた視線が突き刺さった。
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