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「お前には一生敵わねーわ」
社長の腕の中に収まる。段ボールだらけの何もない部屋で額と額をくっつけた後、微笑みながらキスをした。
新しいマンションに引っ越した二週間後。私たちは長野県に向かっていた。
長野は私の実家がある。そう、先延ばしも先延ばしになった私の両親への挨拶。
両親はこれから家に、蓮見総悟が来ることを知っている。事前に電話で伝えておいた。
『蓮見総悟・・・?詩織の勤めている会社の社長よね・・・?』
言葉を失いそうになっていた母だった。
『うん。今まで黙っていたんだけれど、あと数ヶ月で交際一年になる。だって言ったら、お母さん反対するでしょ?』
『反対はしないわよ。でも・・・心配だわ。会社だって今大変なのに、大丈夫なの?』
『うん・・・だよね』
予想通りの母の言葉。
『だけど、二人が来るのを待ってるわよ』
決して明るくはない声色だったけれど、承諾してくれてほっとする。
『ありがとう。じゃあ週末よろしくね』
淡々と言って通話を切った。
「交際を認めてもらうのは今より、困難な状況だと思う。だが受け入れてもらえるよう努力する。会社も、必ず立て直すから」
社長が私の目を真っ直ぐ見て言う。自分に鼓舞して言っているようにも見えた。
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