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合宿1夜目
(見られてる)
抱き寄せられた肩越し、海辺に並ぶ工場や灯台のまばゆい光に溢れて、夜景は実体よりもロマンチックに塗り替える。
昼間あれだけ輝いていた太陽も、水平線に隠れてしまえば辺りは真っ暗。何もかもがシルエットになって浮かび上がっている。昇くんはキスに夢中で、周りなんてちっとも見えていない。
私と違って。
唇に押し当ててくる彼の熱を何とか飲み込むと、気付かれない程度にそっと昇くんの肩の角度を変える。
演劇部の夏合宿で迎えた、最初の夜。
肌にまとわりつく湿った風に運ばれた甘く香り立つシャンプーの匂い、お風呂上がりなんだろう、こちらを覗く誰かの気配を暗闇の中で感じ取る。
(キスしてるの、誰かに見られてる)
10メートルも離れていない木の陰に、小さなシルエット。必死に止めている息遣いすらはっきりと分かった。
後輩の1年生の女の子だ。
(……意外と、こっちからもよく見えるんだよね)
見られていると分かっているのに、私はキスをやめられない。
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