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「何してるの?」
その声で、静止画が一気に動き出した。
よく通る響き。木陰から覗くあの子より向こう、縁側から響く声は熱帯夜に吹きぬける風みたいに涼しい。
私と昇くんを覗き見ていた(いつの間にか増えている?)話し声はモゾモゾ雑音混じりで、部員の誰か判別出来ないのに、周波数を合わせるように涼しい声を私の耳が拾い上げた。
声の主はすぐに分かった。
(見られた)
まだ夢中でキスしてくる昇くんの胸元に寄り添うふりをして、ちらりと合宿所の方をを見返す。木陰で固まっている後輩女子と、縁側に3人シルエットが浮かび上がった。全員、この合宿を機に作った演劇部お揃いのスカイブルーのTシャツを着ている。
一際目立つ背の高いシャツ姿を認めた途端、溜息が出た。
(……あいつに、見られた)
もう一度、昇くんの首に両手を回わす。
「ゆ、ゆゆちゃん?!」
「昇くん、……私のこと好き?」
湯上がりでもないのに夜目でも真っ赤だと分かる顔、潤んだ瞳で頷いてくる。頬に手を添えて今度は私から唇を塞ぎ、昇くんの声を舌で絡めて摘んだ。
遠くから視線が途切れないのを、じっと背中で受け止める。
(もっと見て)
だって、この劇のヒロインは私。
野外ステージに、観客は多いほうがいい。
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