本編

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俺に手を出そうとした朝比奈さんは、アキちゃん先生に説教されている。 恐らくだが先生が怒っている理由は、俺に手を出したからとかそういう可愛らしい理由ではない。自分の城である保健室で、淫らな行為をされた事に怒っているんだと思う。 なんせ、この学園エラソーなおぼっちゃま生徒の集まりでもあるからして、保健室に連れ込んでアー♂な事をする為に保健医を追い出す事がよくあったそうだ。 だけど2年前に転勤してきたアキちゃん先生は、『保健室は我が城』理論で仮病野郎を追い返しているらしい。まあ、この先生はちゃんと体調が悪い生徒には、それ相応の対応をするから人気は高い。 保健委員のチワワちゃん達も優しくて、国内外でも有名な医者の子息も多いらしいし。 「ごめんなさいってば! あ、そうだアキちゃん。今保健室の備品で今月購入したものがあるなら、領収書とかレシート纏めて提出してね!」 「話を変えやがったな? まあ、分かったよ。放課後までにやっておく。もうすぐで休み時間終わるぞ、そろそろ戻れ」 「はーい」 朝比奈さんとアキちゃん先生の会話も終わったようで、朝比奈さんが帰っていく。 扉を閉める直前に、ウィンクしていく所を見ると食えない人だなって思うよね。 さっきまで人の事襲ってたのに。 「アキちゃん先生、ナイスタイミングで来てくれたのは嬉しかったんだけど、出張は?」 「本島行きのフェリーが、高波で出航出来ないらしくて、船乗り場で待つだけ待って帰ってきた。今日は厄日だ。厄日!」 そう言いながらアキちゃん先生は、コーヒーを注いでいる。そんな何気ない姿も様になってやがるぜ……狡いな。俺がやったら、頑張って苦いコーヒーをス〇バとかで注文して、大人ぶりたいお年頃なんだなぁってなるだろうな。 ちょっと何言ってるのか分かんないけど、伝われ。 「そうだったんですね……って、もう午前中が終わるじゃないですか。俺、そろそろ戻りますね!」 「ああ、もうそんな時間か」 俺はアキちゃん先生にお礼を行って立つ、しかし上手く身体に力が入らずベッドから崩れ落ちる様にして倒れ込んだ。 これ腰抜かしてるわ……。 足に力が入らずに床に座っていると、先生が肩を抱きながらベッドに座らせてくれた。 「大丈夫か?」 「え、あ……多分?」 「目眩か?」 「いや……コレは……チャラ男会計のせいですねぇ」 俺が忌々しげにそう呟くと、アキちゃん先生は「なるほど……」と納得したようだった。 いや、それで納得されるあの人もあの人だよ。 俺は思ったより恐怖を感じていた事に驚きつつ、静かに深呼吸をした。 「はぁ……」 「今度こそ大丈夫か?」 「いやまぁ、そうですね……多分?」 「男に無理やり押し倒されて、犯されそうになったんだ。無理もないだろ」 「ですよねぇ」 よく分からない返しをしてしまったが、アキちゃん先生は俺の分のコーヒー牛乳を用意してくれた。ブラックじゃないとは、なんと気の利くイケメン……チャラ男よこれを見習え。 「ありがとうございます」 「それ飲んだら戻れよ。九重先生がお前の事探してたぞ」 「あ〜。そうですね、提出物もあるのでそうします」 俺は手作りコーヒー牛乳を飲み干して、今度こそしっかり立ち上がった。 よしよし、いつもの調子に戻ってる。 「じゃ、ありがとうございました!」 ▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀ 放課後に九重先生に頼まれていた書類を提出し、生徒会へ向かっていると曲がり角で突然、目の前に壁が出来た。 いや正確には、柳田さんと曲がり角でぶつかった。身長差で柳田さんの胸に飛び込む形となってしまったが、そこは許して欲しい。 悪気はないのです(震) 「すみません、大丈夫ですか?」 「……怜海くん……だったんだね、こっちは大丈夫だよ、怜海くんは……?」 非っっ常にゆったりとした喋り形で、笑いかけてくれる柳田さんに不覚にも癒される。 「はい、大丈夫です!」 「そっか……あ」 「ん?」 「怜海くん……龍雅が、学園のHP……褒めてたよ」 柳田さんはそう言って、俺の頭をよしよしと撫で始めた。俺は曖昧に笑う事しか出来ない……いや、なんて反応すればいいの……コレ。 とりあえず、ありがとうございますって返しておくが正解なのか? 「柳田さんは今から生徒会に?」 「うん……そうだよ」 「そうなんですか、なら一緒に行きます?」 こくりと柳田さんは頷いて、俺の頭から手を引いた。そして、俺の歩幅に合わせて歩いてくれる。柳田さんって身長が、194cmなんだよね。 俺が170cmだから、うわぁ……24cm差じゃん! そりゃ、俺のこと子供扱いしたくなるわ。 俺も、もう5cm身長が欲しかった。 俺に訪れた僅かな成長期は、すぐに他の人の元へと過ぎ去ってしまったんだよなぁ。 アイツ……元気にしてるかな? そんな事を考えながら、生徒会室に遠慮なく入ると俺達以外の全員が揃っていた。 席に着く時に、軽く朝比奈さんを睨む事も忘れない。ついでに会長も。 しかし、朝比奈さんにはパチッとウインクを決められ、会長にはバカにしたように口角を上げられる始末。 俺不憫、とても不憫……かわいそう!! 「揃ったな。今回は今月末に行う、新入生歓迎会の事について話し合おうと思う」 きたぁ! 王道イベント新歓だよ!! 去年はかくれんぼで、腐のエネルギーをたくさん吸収させて頂いた思い出がある。 「今年も競技はクジで決めるが、異論は?」 「ないよ〜」 「え……鬼ごっこ……」 「なにか、異論が?」 「ア、イエ。ナンデモナイデス。」 クソ……最初から異論を聞く気などないらしい! 会長は悔しがる俺を鼻で笑うと、スマホを取り出して電子的なくじ引きをパッと済ませた。なんだろう、文明の利器をフル活用……まあ、気にしたら負けか。 「……ふん、山谷良かったな? 鬼ごっこが引けたぞ?」 「うぇ!? マジですか!」 「あぁ、ほら」 会長がスマホの画面を、面倒くさそうに差し出す。確かに鬼ごっこになっていた。 うぇぇぇぇい! 「鬼ごっこなら……一昨年(おととし)くらいにやった企画書を元に、作ればいいだろう。泉、企画委員会に投げて一昨年とは違う案を練らせろ」 「分かりました。では、補佐に庶務をつけましょう」 『りょーかい!』 トントンと話が決まっていく。 さすが生徒会だ……クラスの話し合いじゃ、きっとこうはならないだろう。 腐っても、エリートが集まっている。ってことは、俺の仕事は新入生歓迎会の宣伝だな。 「新歓は今月末だが、実際のところ日数は2週間くらいしかない。各自確認を取りながら、素早く動いてくれ」 会長の言葉に、気が引き締まる思いがする。 推薦で選ばれたとしても、責任はあるから俺もしっかりやろう。 でも会長、おれ朝のこと忘れてないからね?
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