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午後19時頃、生徒会のメンバーは各自の仕事が一段落したのか、みんな帰り支度を始める。
俺も広報関係の仕事が一段落し、寮に帰ろうとデスクを立ち上がる。
すると、見計らっていた様に会長に捕まえられた。
「山谷、今日から生徒会棟に移動だろう? 俺が寮まで連れて行ってやる」
「そういえばそうでした。会長、ありがとうございます。お願いします!」
「俺に道案内などさせた生徒は、後にも先にもお前だけだろうな」
いやいや、教えてやろうかって言ってきたのは会長ですやん? なんで、俺が無理やり案内させてるみたいな受け取り方してんのよ。
そんな会長への不満を飲み込み、案内をして貰う。寮は生徒会棟、一般生徒棟どちらも学園の敷地内にある。その為、生徒が学園の門を出る事は休日以外、殆どないと言っていいだろう。
会長について行きながら数分、寮にしては一際豪華な建物に入る。中に入ると外装とは違い、白と家具の木の色を貴重とした、アンティークな内装になっていた。めちゃくちゃオシャレだ。
一般生徒棟とは違い、廊下や談話室も広々としている。
「簡単に説明する。5階のフロアは俺の部屋だ、エレベーターから出てすぐ、近くに入口がある。殆ど5階のフロア全部が部屋になっている為、この寮の中では1番広いだろう。そして4階には、泉と朝比奈の部屋がある。もちろん、1人1部屋与えられている。フロアを2分割している為、少々手狭だがな。3階は双子の部屋がそれぞれあって、2階に柳田とお前が住む事になった。そして、1階は談話室と遊戯室、会議室がある。会議室で、持って帰った議題を生徒会のメンバーで話し合ったりする事がある。お前も出来るだけ会議には参加しておけ。後はそうだな……1階の共用スペースでのセックス禁止くらいか……なにか質問は?」
「いや、特には……」
最後が衝撃的すぎて、質問も何もないです。
共用スペースで性行為は、いくらお坊ちゃまでもいけません! まぁ、それはいいとして。
1人1部屋与えられるのは嬉しいけど、同時に寂しくもある。もう、荷物は全て運び込まれているだろうから、透は今1人であの部屋にいるのかな……?
あ、ヤバい。ちょっとホームシック(?)だ。
そんな俺の事など知らず、会長と寮長に挨拶をして今日はおさらばした。
▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀
初めての部屋はもう、凄かった。
2LDKって、いや2LDKって!
学生でこんな一人暮らし経験したら、将来がある意味不安なのだが!
金持ちならともかく、庶民は尚更!!!
え、待って待って。会長ってこれの、2倍くらいの部屋に住んでんの? 1人で……? 寂しくないの?
あ、人連れ込んでるから寂しくないってか!?
「う……突然の供給に、枯渇していた身体が追いつかない……」
会長×ツンデレチワワの妄想をして、勝手にダメージを受けてしまった。
腐男子、落ち着いて?
取り敢えず、部屋着に着替えて荷解きをしよう。
どの部屋にも、家具は備え付けられているみたいだな。寝室にはベッドがあるから、まずはベッドメイキングからかな。
なんか、模様替えとか好きなタイプだからワクワクしてきた。よーし、頑張っちゃうぞ〜!
1時間くらい経ってやっと、全部の部屋の模様替えが終了した。キングサイズのベッドって、誰か連れ込む前提なの?
前、使ってたシングルのが合わなかったから、学園から配布されたものを拝借してシーツと掛け布団とかはどうにかなった。
でも、コレだけだとオシャレさが無いから、なんかエスニックな模様の布を足元に掛けておいた。それだけで、真っ白しろだったベッドが華やかになる。
枕も同じ布を被せて完了!
寝室の窓際に、手のひらサイズの観葉植物を置いて、それっぽくする。
うん、ぜーんぶ雑誌とか広告とかの受け売りです。それでも中々、様になっているのではなかろうか?
そして寝室の隣の洋室にヲタクグッズを隠す。
特にBLを!!
クローゼットに本棚を収納してから、奥にBL本を入れて、その手前にまた新しい本棚を収納する。手前の方には少年漫画とか、文芸小説とか雑誌とか雑多に置く。
そしてそして、上のハンガーラックに2軍と3軍の洋服を掛けて、カモフラージュしておく。
え? そんなに奥に仕舞い込んだら、読めないだろって? 心配しないでくれよ、ワトソンくん?
この世の中には、電子書籍ってモノがあってね?紙媒体は保存用、電子書籍は読むように購入しているんだよ☆
とまぁ、こんな所で少ない荷物を片付け終わったら。20時半になっていた。
風呂にはもう入った為、夕食を摂っていたら部屋のインターホンが鳴った。
見てみると、お隣の柳田さんだった。
そういえば、挨拶に行くのを忘れてた。
中に入ってもらって、お茶でも出そう。
粗茶ですつって。
「はーい、開いてるんで上がってきていいですよ〜」
「……ごめんね……遅い時間に……」
「いえいえ、こっちこそ挨拶に行け無くてみすません!」
「大丈夫だよ、コレ……良かったら、食べて……?」
そう言って柳田さんが差し出してきたのは、お菓子の入った紙袋だった。
ってこの紙袋、あの大手スイーツ店のロゴだ……まさかお高いもの!?
「コレって……」
「ああ……紙袋は、ウチの会社のやつ……使っただけ、中身は……僕が作った」
自身なさげに言う柳田さんを横に、俺は紙袋からマドレーヌらしき物とクッキーらしき物を出してみる。
おお……めちゃくちゃいい匂い!
「柳田さん。良かったら、一緒に食べませんか?」
「!! ……うん!」
可愛い……尻尾が見える……ブンブン振り回されている尻尾が見えるぞ……しかも、お菓子が作れる有能っぷり……友好物件すぎるっ!
身長と相まって、いい攻めになりそうだ。
相手はお調子者とか、ギャップが出ていいかもしれないな。
「お茶入れてくるんで、座ってて下さい!」
「ありがとう」
なんか、粗茶を出す事に抵抗が……だが安心してくれ。俺にもメンツがあるのだ、お坊ちゃまの多いこの学園で見栄を張るためにも、ちょっとお高めなお紅茶を買っていたんだよ。
あの、高級そうなカンカンに入ってる高いやつ。
ありきたりな、アールグレイの茶葉だけど香りが好きなんだよね。
「お待たせしました」
「ん……いい香り、こっちもどうぞ……遠慮しないでね」
「じゃ、このマドレーヌを……」
俺はマドレーヌを1口大にちぎって口へ運ぶ。
するとバターの香りが広がって、ジュワッと蜜が溶けてくる。でも、甘過ぎず丁度いい。
え、コレを柳田さんが作ったの?
「めっっっちゃくちゃ、美味しいです……!!!」
俺が半ば悶えるように伝えると、柳田さんは不安そうな顔からふあっと、とろける様な笑顔を浮かべた。
その顔に思わず、心臓がギュンッッ!! ってなる。
恐るべき破壊力。
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