本編

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暫く2人で談笑を楽しんでいたら、俺の作ったホームページと新聞の話になった。 柳田さんはどうやら俺の処女作である、あのホームページのデザインを気に入ってくれたらしい。 「……凄く、落ち着く……デザイン」 「ははっ。姉に手解きして貰ったので、あんまり実感ないです」 「ううん、前の高級感あるデザインも……いいけど、今のは親しみやすくて……好き」 柳田さんは、自分で持ってきたらしいタブレットで、学園のホームページを見る。 「確か今までの投稿は、柳田さんの手が空いた時にしてたんですよね?」 「……うん、そうだよ……でも、人に見せる為の文章って……苦手」 「そうなんですか? ホームページを読んだ感じだと読みやすくて、分かりやすいですよ?」 柳田さんのタブレットを覗き込みながら言った。教師たちに書記へ推薦されただけの事があり、物事についての重要点を分かりやすく書かれていて。自身からの視点だけに留まらず、他視点からみて疑問になる事柄は説明によって失くしている。公平な視点で書かれた記事は、見てだけで書き手の力量が凄いことが分かる。 「そう言ってくれると……うれしい 」 「引き継ぐ俺のハードルが、必然的に高くなっているのが解せませんが!」 「ふふっ、怜海くんなら……大丈夫!」 「柳田さんの、期待に添えるように頑張りますよ」 俺は弱気になるのを切り替えるように、紅茶を飲み干した。そんな俺を、微笑ましそうに見てくる柳田さん。 なんか……変な空気流れてる? 「……怜海くんは、自分に自信……ある?」 「どうしたんですか急に?」 俺の困惑をよそに、柳田さんはゆったりと紅茶を口に含んだ。俺はそれを見ているのだが、いまいち何が言いたいのか分からない。 「怜海くんは……生徒会に後輩1人で、入ったよね」 「はい、そうですね」 「……そして先輩と、皆とすぐに……打ち解けた、それは凄いことだと思うな……」 「そう、なんですかね?」 「うん……とっても」 先輩は人との距離を瞬時に図ることが出来るのは、凄い事だと続けた。 まぁ、確かに人見知りは小さい頃から殆どしなかった。それは姉弟いるからだからとか、完全に趣味として人を見ているからとか云う雑念と事実が関係してると思う。 とはいえ、無意識にやっていた事を褒められるのって、気恥しいというかなんというか……。 「今でこそこんな感じですけど、中学時代とかはめちゃくちゃ陰キャというか………根暗でしたよ?」 苦笑いをしながら先輩に言うと、柳田先輩にとっては意外な事だったらしく驚いていた。 そんなに、驚いてますって顔をするほど意外かな? 「……怜海くんはどうして、変われたの?」 「変われた、っていうか好きな……趣味が出来たので毎日が楽しくなりました」 まぁ、腐男子になったからとは言えないよねぇ。 「……趣味?」 「はい、柳田さんは何か趣味とか、好きなことってないんですか?」 「………趣味かは分からない、けど……お菓子作りは、好きかな?」 可愛い……おっと、柳田さんの可愛さに脱線しかけたが、そうじゃ無くて。 「そのお菓子を他人に食べて貰って美味しいって言ってくれる人がいれば、それは柳田さんの自信に繋がりませんか? 自分は他人を喜ばせる事ができるぞ、って!」 「……喜ばせる」 アレ……反応薄い? 両手をバッと広げて、ミュージカル風に力説した自分がバカみたいなのだが? そんな俺を置いて、柳田さんは考え込んでしまった。 この人の質問とか言動を見てると、自分に自身が無いってより。自分が苦手なんじゃないかな。 でも、自分自身を嫌いになれるほど強く無いから、皆とは一歩引いた所にいるって感じ? 「……生徒会の皆は、あんまり甘いもの食べないから……さっき怜海くんが、美味しいって言ってくれて、すっごく嬉しかった……」 「はい……」 「……怜海くんが美味しいって言ってくれた、から……自信、持っていいのかな?」 柳田さんは恥ずかしがりながら、徐々に目線を俺から手元にずらしていく。 それが何ともいじらしく、初めて人に心を開いた子犬のようで胸が暖かくなった。 これが母性ってやつか………!? 「いいんですっっっ!!!」 「………!?」 ぐわっと柳田さんの両手を掴んで、ぶんぶんと振り回す。柳田さんは困惑した様子で、はにかんでいる。いや距離の詰め方、三段跳びかって感じもしなくはないけど嬉しいものは嬉しい。 ▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀ 上機嫌な柳田さんは、さっきから自分の話をしてくれるようになった。 何というか、気軽に話せる仲?になれたのは嬉しい。考えてみれば、生徒会に入ってまだ一週間も経過していない。というか二日した経ってない。それなのに、ここまで馴染めている自分が怖すぎる………。俺、クラスではボッチでずっと一人なんだけどなぁ。 「怜海くん……今度、うちのスイーツ店に招待するよ……だから二人で行かない……?」 「えっ、いいんですか!?」 柳田さんの実家は大手スイーツ店で、パリで名を上げ日本で店を開業した夫婦のお店だ。 確か、奥さんが社長をしていて旦那の方が本店でパティシエとして厨房に立っている……的な事を雑誌で読んだことがある。 人気店すぎて、入店するのにも、時間が凄くかかるって話だけど。 「柳田さんのご実家のお店って、あの『WILLOW』ですよね……?」 「うん……そうだよ?」 「あの俺なんかが行っても大丈夫、と云うか……」 庶民が行っても大丈夫なんですかね、と言おうとしてお店に関しては庶民がターゲットだから問題なかった事を思い出した。けれど、柳田さんは何を勘違いしたのか、悲しそうな顔をしてしまった。 「怜海くんは……行きたくない?………だめ?」 「いきます。行かせてください」 思わす真顔で言ってしまった。 やべぇ、ワンコやべぇ……!!! しゅんとしていた尻尾が、一気にブンブン振られている幻覚すら見える。 「良かった、楽しみ……だね」 「あ、ははは~」 なんか大型犬になつかれた気分。 気分は上々です。現場からは以上!
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