本編

24/42

1626人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ
様々な事があってバタバタしていた、新入生歓迎会の準備も終わり当日がやってきた。 細かい運営の流れ・当日の司会等の表の作業と進行は、生徒会が担当する。 会場設営は企画委員会こと、企画実行委員会がやってくれた。人手が足りない所は、他の委員会同士で補いつつ準備を進める。 生徒会は意外に企画を練る時がいちばん大変で、主軸となる案が出来たら企画委員に投げて、そこからは余り関与しないから、行事ごとに仕事は対して増えないみたい。 けど、他の委員会に任せる代わりに、失敗とか事故が起きたらそれなりの責任は問われるらしい。監督不行届みたいな? でも最終決定とか普段からの仕事にプラスされて、行事の予算とか資料作りとかの仕事が増えるから忙しいのは変わらない。 まあ、そんな所も生徒会らしいなと今は割り切っている。ここ数日で俺も成長したなぁ……もう3年の生徒会メンバーに並んでも堂々と歩けるしさ。 「怜海ちゃーん、そろそろ始まるよ! 準備はおーけー?」 「了解です。今いきまーす!」 俺は控え室から、上手側の待機室に向かう。 今年の新歓の遊戯は鬼ごっこであるー!! これこそ、王道の中の王道ッッ! 忙しさにかまけて、消失していた腐への意欲が舞い戻ってくる感覚!! Amazing! 【さぁ、さぁ! みんなぁー! お待ちかねの、新入生歓迎会の開会式をはじめまぁーす!】 【司会はぼく達、愛川綾弥斗と夏弥斗が務めさせて貰うよ!】 俺が待機室へ着くと、それを待っていた双子がコミカルにステージ上に出ていった。 挨拶をしただけだと言うのに、阿鼻叫喚の声がここまで聞こえてくる。 同じ男として、何処から声が出てるのか甚だ疑問なチワワの声に、低音のゴリラの雄叫び。 独特なハーモニーが……いや不協和音がぁ。 BのLを目当てにこの学園までやってきたが、この絶叫には慣れない。会長に至っては、容赦なくイヤホンを装着している。 「相変わらずうるせぇな……」 「もう、恒例でしょ?w」 「……うん……少しびっくりするけど……」 朝比奈さんは慣れた様子で、会長を笑っている。それに同意する柳田さん。 この人達、常に人に注目されているからか恥ずかしいとか緊張とか、そういった感情は浮かばないのだろうか……俺は今、物凄く緊張していると言うのに。 そんな俺の心内(こころうち)を知らずに、双子のは開会式を進めていく。 会長の話に理事長の話、ルール説明。 注意事項が行われていく。 もちろん、会長や風紀委員長様が前に出る度に絶叫が起こって、俺はもうクタクタだった。 そして、残念ながら次は俺がステージに立つ番である。単に各クラスの学級委員に、鬼と逃げる側の腕輪を配布するだけなのだが……。 「「「いやあああぁぁぁぁぁ!!」」」 こんな絶叫に巻き込まれるとは……。 この絶叫は誰に向かってるのだろうか? 会長か? 会計か!? それともその2人に物理的に近い、俺に向けての拒絶なのか!?!? そんなに拒絶されたら泣くぞっっ!! 俺、泣くぞ?? 「さっすが、さとみん!」 「え、」 「会長たち並の絶叫だね〜♪」 困惑する俺を無視して、双子は何やら満足気に頷いている。 そして、何故かグッドと親指を立ててくる。 なるほど……拒絶じゃなくて推しカプ見て発狂してるって事なのか? そして、その対象が俺と? いや、なんでっっ! 俺は平穏に、過ごしてただけなのに。生徒会に入っても目立たず、波風立てず廃部寸前の新聞部的な活動をしてただけなのに!! 委員報告会 ──2週間に一度行われる全委員会が集まって話し合う会── とかでも、地味に陰キャかましてたのに。 「どうしてこうなった……助けてくれ、透」 俺は静かに体育館のどこかにいるであろう、友の名を呟いた。 それでも仕事はしっかり行うのが俺のモットーなので逃げる側の黒い腕輪と、追いかける側の白い腕輪を配布していく。 事前に鬼か逃げる側かは決めてあるので、ここは楽ではある。 各クラスの学級委員に腕輪を渡し、みんなが装着したのを確認して後は逃げるだけとなった。 双子が息を合わせて、スタートと声を掛ければ、一斉にそこは修羅の国と化すだろう。 何故、始まっても無いのに分かるのかって? 去年がそうだったんだよ(白目) 「みんな、リングはつけれたかなぁ?」 「良さそうだねぇ! じゃあ、5秒後に始まるよ!」 そう言って双子はカウントダウンを始めた。 「「5、4、3……」」 秒数が減っていく度に、みんなはソワソワとし始める。そして、双子が大きな声で 「「スタート!!」」 と言うとそこは俺の予想した通りに、修羅の国へと化した。まさに、「阿鼻叫喚」この言葉が似合う行事である。 「さぁて、みんな行ったみたいだし。僕らも裏口から出て逃げたり、追っかけたりしよう!」 「ん……そうだね……」 「はぁーぁ……やっっっと、開会式が終わったよ。あんなに叫んで喉とか大丈夫なんかねぇ」 「おい、風紀が呼んでたぞー」 「お、九重先生じゃん 」 開会式が一段落して、俺たち生徒会メンバーが待合室でダラけていると、九重先生が入ってきた。さっきまで、チワワ達の喉のカラクリに疑問を抱いていた朝比奈さんは、入ってきた九重先生にさらりと席を譲る。そしてその椅子に、当たり前かのように座るホスト……じゃなくて九重先生。 非常に違和感のない一連の流れ。 なんて言うか……いいねぇ。 朝比奈さんも大人を舐めきってる訳じゃなくて、ちゃんと弁えてるって所は好感度高めではある。 「風紀が呼んでるって……何かあったんですか?」 「いや、単純に人手不足だろう。手が空いてるやつは行ってやれ」 「じゃ、俺いってこようかなぁ〜!」 朝比奈さんはそう云って、向かってしまった。 あ、コレ……朝比奈さん。 鬼ごっこから逃げたな?
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1626人が本棚に入れています
本棚に追加