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朝比奈さんが逃げて行った方向を、少しばかり恨めし気に見ていると副会長に呼ばれてしまった。
俺たちも、鬼と逃げる側のクジを引かなければいけない。双子は事前に引いていた為、今回は箱をもつ係である。可愛い。
「はい、さとみん!」
「ありがとう!」
ドキドキわくわくしながら結果を見ると、綾弥斗くんから逃げる側を示す黒のリングが渡された。逃げる側か……生徒会新聞と学園HPに載せる写真が、じっくり撮れない可能性が出てきたぞ?
流石に生徒会長とかみたいに、鬼側でも常に追いかけられてるって事はないだろうけど。
もはや、生徒会のメンバーは規格外だからなぁ。
どっちを選んでも、逃げる側みたいな感じではある。
「さとみんは副会長と同じで、逃げる側なんだね?」
「そうみたいですね。今年は新聞とHP用の写真も撮らないといけないので、本格的にゲームに参加できないかもしれないんですけどねぇ」
少し残念だが致し方なし、これでも元主席の座についた男!
全力疾走しながら、学園に潜むイケメンくらい完璧にとってやんよ。
「じゃあ、俺はやる事もあるんで一足先に失礼します」
「「いってらっしゃーい」」
見送ってくれる双子に踵を返して、体育館を飛び出した。
既に裏入り口にも、生徒会メンバーを出待ちしている生徒がいるが、俺は堂々とそこを走り抜ける。
だって誰も俺には興味ないから……って言おうとしたんですよ。
しかしですね、何故か私の後ろを数名が追いかけて来ている事実。
気のせいあってほしい。そう、気のせいであって欲しいんだ!!!
俺は恐る恐る、背後を振り返った。
「いや"あ"あ"ぁ"ぁぁぁぁ!!!!!」
振り返ったソコにはゴリラと、いつものキュルキュルした瞳を、般若の如く豹変させたチワワがいた。
いや、怖い怖い怖いっ!!
全力で走っているはずなのに、何故だか距離が開かない。
逆に、どんどん距離が近くなっている気がするっ!!
なんなのっ!?
普段全く走らないヲタク走らせて楽しい!?
楽しいかっ!! こんちくしょうめッッッ!!
俺は全力疾走で校舎の中を曲がっては進み、曲がっては進みを繰り返した。
すると、後ろから聞こえていた呪怨は聞こえなくなり、気付けば中庭へと続く通路へ来ていようだ。
この学園広すぎな?
「お、中庭から楽しげな声が聞こえる。シャッターチャンスか?」
スマホ片手に中庭を覗き込めば、そこにはイケメン片腕にクネクネしているチワワが数人。
そこで俺は何となく察した。
この中庭、出入口が俺のいる場所とその反対側の2箇所しかない。
ここからは考えたくもない憶測だが、恐らくカースト下位のチワワちゃん達がこの中庭にイケメンを追い込み、中庭に残ったカースト上位のチワワちゃん達がそれを捕食する……んだと思う。
イケメンの追い込み漁ってか?
アレ、俺ここに居たら不味くないか?
これでも生徒会メンバーとまではいかないが、おれは顔が整ってるのよ?
って、あ!
あの暗い青髪は……透じゃないか!
ヤツもこのチワワ漁の餌食に……非常にご愁傷さまだ。
大丈夫だ、透!
お前なら三途の川くらい、クロールで戻って来れる!
「あ、やべ」
捕まった透に思いを馳せていると、複数のチワワと目が合った。
その瞬間俺は全力で、逃げ出していた。
「ヲタクをッ……これ以上っ、走らせるなぁぁぁあ!」
俺は本日2回目の全力疾走で、チワワ達を巻き、近くの教室へ逃げ込んだ。
「はァ、はァ、はァ……お坊ちゃま……だろ……アイツら、はァ、なんでッ……あんなに、足早いんだッ……はァ」
自分の心拍で殺されそうな俺は、床に寝っ転がった。
息が整うまで目を閉じて、胸に手を当てて空気を取り込む。
死ぬぅ……半世紀分の体力を使った気がする。
───ガタッ
「んぇ……?」
床で項垂れていると、突然教室の奥から物音がした。
もしや見つかったのか? と驚きつつ、振り返ればそのにはいつぞやの一匹狼くんが居た。
もしかしてココ、狼くんの巣だった?
「……大丈夫か?」
「スーーッ、う、うん!」
狼くんが俺の心配をしている事に驚き過ぎて、変な返しになってしまった。先客が居たかぁ。
流石に出て行かないと、この狼くんは嫌だよね?
ていうか、俺が気まずい。
「えっと、佐藤くんが先に居たのか、お邪魔しちゃったよね、ゴメン直ぐに出ていくね!」
そう言って教室を出ようとすると、腕を掴まれた。
今、脳に酸素が十分に行き届いてなくて、頭痛いし眠いんだ……ちょっと休憩できる所に行きたいんだが……?
そんな気持ちを込めて佐藤くんへ向き直ると、ソコにはイケメンが……じゃなくてその御尊顔を、心配そうに歪めた佐藤くんがいらした。
「え、っと?」
「か、」
「か……?」
「顔色が……悪い、から……もう少し、休んでおけ」
「え? でも……邪魔じゃない?」
「邪魔なんて一言もいってない……」
ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙……耳がァ、耳がァ見えるぞォォ!!
「シュンッ」ってなった耳が見えるぅぅっっ!!
佐藤くんの耳(幻)に興奮していると、立ちくらみが起こった。
クラっとした途端、目の前が一瞬真っ暗に。
「だ、大丈夫か……!?」
「あ、う……うん……だいじょ……ぅえ?」
俺は目の前の光景に時間が止まった気がした。
見事なザ・ワールドを決めたのには理由がある。俺は今、腕の中にいたんだ。
そう、何を言っているのか分からないだろう?
俺も分からない。だが聞いてくれ、立ちくらみを起こして目の前がブラックアウトしたんだ。
そして立ちくらみが戻ったら、佐藤くんの腕の中で胸に寄り掛かるように立っていた。
───本当にあった怖い話だ。(キャ--!)
そこそこしっかりした身体の俺を、もう1回云うぞ?
そこそこしっかりした身体の俺を、抱き留め細いななんて呟きやがった佐藤くんは、直ぐに離れて俺の顔を心配そうに覗き込んでくる。
教室では周りに鋭い視線を向けていて、人が寄り付きにくいイメージなのに少人数だとこうも狼からワンちゃんになるのか……。
個人的に佐藤くんは漣氏が攻めの爽やか×一匹狼を推している為、非常にありがたい変化ではある。
美味である。
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