本編

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現在。 俺は佐藤くんの言葉に甘えて、椅子に座らせて貰っている。 とは言っても教室なんで、適当にそこら辺にあった椅子に座ってるんだけど。 佐藤くん、別におれの真隣に座らなくてもいいのでは? 佐藤くんは隣の席から心配そうに、俺の事をチラチラと覗きみてくる。 心配してくれるのは有り難いけど、それはそれは気まずい。 「えー、っと……佐藤くんも逃げる側なんだね?」 俺は苦し紛れに、佐藤くんの左腕についてる黒いリングを指した。 イケメンは、何をつけてもカッコイイから本当にずるい。 俺の問いかけに、佐藤くんは何故か驚いている。 なんでよ? 俺は佐藤くんの中で、言葉の通じない宇宙人か何かだったりする? 「……山谷も逃げる側なのか。正直、鬼側の奴も追いかけられてて、鬼ごっこの意味があるのか」 「おお……企画委員の努力が、見事に無に帰している」 「なんだ……?」 「いや、佐藤くんカッコいいから、めちゃくちゃ追いかけられたでしょ〜」 ポケットからメモ帳を出して、ルールの確認をしながら言った。 今回の鬼側の景品は、捕まえた人と一日過ごせるといったものだ。逃げる側は、時間一杯逃げ切れば、一日だけ授業の免除をされる。 鬼の場合は一緒に過ごせると言っても、この離島に遊園地なんてリア充ホイホイスポットはない。デートが出来ても学園内デートか、本島へ少しの時間遊びに行くくらいだ。 正直なところ、逃げる側の理が大きい景品内容だと思う。 因みに俺は是が非でも逃げ切りたい。 ヲタクにとての合法的な平日の休日は、シャンプーとリンスが同時に無くなった時くらいの喜びがある。 些細な問題だが、それが謎に嬉しいあの感じ。 そんな下らない事を考えていると、佐藤くんが黙り込んでいた事に気付く。 やっぱり俺と二人きりは気まずいよなぁ。 クラスの立ち位置的なのは、似てるけど全く質が違うし……。俺は人間観察が大好きなヲタクくんで、佐藤くんは静かな一匹狼。 「……大牙」 「はい?」 「漣のことは名前で呼んでいた。俺もお前と、気軽に話せる仲になりたい……」 少し居心地が悪そうに、佐藤くんが言う。 俺は言っている意味が一瞬理解できなくて、固まってしまった。 仲良くなりたい……? 誰と? 俺とか! 「えーっと、本当にいいの? 俺、この学園で云う庶民なんだけど……? 横の繋がり的なの、何にも無いよ?」 「別にそんなの重要じゃない。お前は、俺と親しくするのは嫌か?」 相変わらず幻の耳シュンを見せてくるのが、俺に大ダメージを与えてくる。そんな残念そうな顔をされたら、断れるわけなかろうがっ!? 「嫌なわけないじゃないですか……むしろ宜しくね!」 「本当か、俺も漣のように親しくしてくれるのか?」 「も、もちろん! 大牙って呼んでもいい?」 俺は佐藤くんの予想外の喜びに、気圧されながらも気丈に振る舞う。 イケメンのキラキラ顔は心臓に悪い……。 「ああ、俺も山谷のことを下の名前で呼ばせてもらう」 「あはは〜、よろしくね」 BLの鑑賞対象と友達になってしまった。思い切り、友達を作った事ない奴らの会話だったけど。 まあ、そんなこともあるさ……多分。 というか漣くんと同じくらい、俺と仲良くしたいって思ってくれたのか。 俺にヤキモチか? それとも漣くんに? どっちにしろ俺は、噛ませ犬の役だろうがな! 漣×佐藤 or 佐藤×漣しか勝たん! 変なテンションの中、大牙と会話をしていると廊下から複数人の足音が聞こえてきた。 俺たちは咄嗟に机の下に隠れた。 段々と近付いてきている足音に、チワワとゴリラの形相が走馬灯のように浮かんでくる。 ガラリと開いた教室の扉から、息を切らした人物が入ってきた。その人物を追い掛けていたであろう、複数の足音が過ぎ去っていく。 「はぁ、行ったかな……?」 肩で息をしている人物を見れば、なんと漣くんだった。噂をすればなんとやら、いつも完璧にセットしている前髪を汗でかき上げているその姿は、正しく爽やかイケメンだ。 「翔太、大丈夫?」 「ん? ああ、怜海くんか……もしかして怜海くんも?」 「そう、大牙と一緒にサボり!」 そう言って、手首につけた黒いリングを見せる。翔太は少しはにかみながら、自分も腕を上げてリングを見せてくれる。 もしかしなくても、この教室は知ってる人は知ってる穴場なのかもしれない! 「佐藤くんも逃げる側なんだね〜」 「……」 「僕も凄い人数の人から追いかけられてて、隠れ隠れ逃げてるんだ〜」 大牙の無視にも、全く気にせずに話し掛け続ける翔太。心が強いというか、限りなくいい人と言うか……。 「あ、そうだ、二人ともこっち向いてー」 俺は二人を呼びかけて、スマホのシャッターを切る。 振り向き顔のん?って感じの翔太と、色っぽく鋭い視線を向けてくる大牙が撮れた。 なんとも麗しい顔面なのだろう! この写真内の顔面偏差値で、恐らくフ〇ーザ様くらいなら倒せる。 それくらいの戦闘力がある。 そんな事を考えながら、スマホ片手にニヤニヤしていると、翔太からひったくられる様にスマホを取り上げられた。 「あ、」 「はいっ怜海くーん、コッチ向いて!」 そう云うと同時に、シャッターが切られる。 しれっと隣に大牙がやってきて、一緒に並んだツーショットを取られてしまった。 おお……あの一匹狼が微笑む感じで笑ってる! いや、そうじゃなくてっっ! 「俺はいいんだよ! ほら、翔太スマホ返して?」 「ははっ、記念だよ〜!」 笑いながら返してくれるスマホを、今度は大牙がひったくる。 「あ、ちょっと。大牙さん??」 困惑しながら大牙を見れば、大牙はニヤリと笑ってスマホを構えた。 そして翔太が肩を組んでくると、シャッターが切られる。 これ以上、俺の間抜けな顔を撮らないで! そして、二人して連携をとるんじゃありませんっ! 「もう、いい加減返してくださる?」 「ははっ、すまない。ついな」 今度は大人しく返してくれた二人。 俺は即座に、取れた写真を確認した。 改めて自分の顔が、そこそこのイケメンで良かったと思った。 だって意図せず周りの人間を、自分の引き立て役にする製造機達の横で、写真を撮るなんてもはや事故なんだよ。 そう静かにフォルダの画面を閉じた。 「いい感じに撮れてたでしょう?」 「そうだね……純正カメラだと信じられないくらいの、バカ高いクオリティで撮れてた。イケメンが……」 「その写真、後で僕達にも送ってくれる?」 「もちろん」 途轍もなく自然な流れで連絡先交換をした。 この爽やかやりおるっ! まぁ、クラスで気兼ねなく話しかけられるのは、今のところこの2人だけなので正直嬉しかったりする。 たしか、巻くんからも連絡先の交換を迫られたっけ? あのあと、何故か懐かれちゃったんだよなぁ。 「さとみぃぃぃぃぃ! どこだぁぁぁぁ??」 ああ、噂をすればなんとやら……。 俺の名前を大絶叫しながら、扉を開けてきた黒いマリモに諦めの表情を浮かべてしまった。 嫌いじゃないんだよ。 いや、ホントに。 悪い子ではないんだよ。 ただね、好き嫌いがはっきり分かれるタイプの人間なだけで。 俺は迫り来る災害に避難出来ずに、その場で笑う事しか出来なかった。 巻くんが鬼じゃない事を願うよ!!
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