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会長を親衛隊へ生贄に捧げて、俺は全力疾走で逃亡を図る。
会って間も無い後輩に迫ってくるような、危ない人なのでそれなりに警戒はしているのだ。
まあ、某チャラ男会計様よか、理性はある方だがな!!
何が楽しいのかニヤニヤしてたし、会長はあのイケメンがないとただの暴君だからなぁ。
俺は逃げ込んだ先の花壇と花壇の間で隠れながら、新歓を楽しんでいる生徒を撮影していた。
休憩と仕事の両立、素晴らしい。
「みんな楽しそうだなぁ」
「そうだねぇ、俺達も楽しんじゃう〜?」
1人呟いた言葉に返事が返ってきて、驚いた俺は猫のように飛び跳ねた。
びっくりしたぁ、朝比奈さんか……なんでこんな所にいるんだよ。風紀のお手伝いは終わったのか。
飛び退いた俺を見て、朝比奈さんは愉しそうに笑っていた。チャラいし軽いの、見た目通りな笑顔だ。
「そんなに、距離あけなくても良いじゃん」
「いや、驚いてしまって。あと朝比奈さんには、1回襲われたんで」
正直に言えば、朝比奈は「ふーん」と至極興味無さげに返して来た。
「何でもいいけど……怜海ちゃんは、そんな花壇の隙間に挟まって何してたの?」
「ああ、これですか。さっきから色々な人に追いかけられてて、生徒会新聞とHP用の写真が取れなかったんで、鬼から隠れながら撮影してたんです」
「へぇ、怜海ちゃん美人さんだから、狙われちゃうのは仕方ないね」
「え、嫌味ですか?」
今現在もキラキラと、国宝級の顔面をしている朝比奈さん。俺は思わず口走ってしまった。
チャラ男属性のイケメンは、需要が高いのか学園内の人気も非常に高い。学園内の部活とかイベントとかの、費用の計算をしているだけの役職がですよ。まあ、朝比奈さんはそれと兼任して色々と会長と副会長のサポートに回っているんだけど。
イケメンで優秀だなんて、人差し指が臭いとかそういうハンデがないと、色々と釣り合いが上手くいかないだろ!
「そういえば、さっき会長が怜海ちゃんのこと、探し回ってたけどなにかあったの? すっごい形相だった、ウケるよね~」
「うわ……この行事が終わったら、俺の命が残ってない可能性が出てきた……」
「はははっ、何かしちゃったんだね。ということで、怜海ちゃん」
突然、朝比奈さんの雰囲気が色気を纏った。
あ、嫌な予感(N回目)
ガシッと俺の肩を引っ付かんで、人気のない物陰に連れていかれる。嫌な予感と恐怖感で、俺は体を硬直させていた。
嫌だぁぁぁ!!
殆ど抵抗も出来ずに壁ドンをされた俺は、御綺麗なお顔とエンカウントする。
ああ、なんかデジャヴを感じる。
赤い人と同じような構図で、言い合った記憶が蘇る。仕方ない。
また親衛隊への供物となって貰おう。
それでは失礼して
「あ、ここで誰か呼んじゃうと、怜海ちゃんも
一緒に捕まっちゃうね?」
「ふえ……」
完全なる行動の先読みをされてしまった。
そして、俺を絶対に叫ばせない唯一の脅しだ。
授業の免除が許されるのは、逃亡側として制限時間内で逃げ切ること!!!
ヤバい!!
自分の貞操と欲望のどっちを取るか、試されているっっっ!?
ああ、俺の立ち位置が可愛いチワワくんとか、イケメンな後輩くんとかのだったら、良かったのに!
俺はノンケだぁぁ!
BLに興味はあれど、される側ではないのだ!!
実は最近、ちょっとソッチもイけるかもとか思っていたりするが!?
でも、今のところ孫の顔は両親に見せたいっ!
「先輩、さすがにお遊びが過ぎますわよ!」
「ふふっ、怜海ちゃん、相変わらず可愛いね?」
全力で朝比奈さんの胸を押しているんだが、力の入らない体勢を取らせられているからか、ビクともしない。解せんな。
それに保健室でし倒された時も、抵抗したら力の入らない体勢だったなぁ。
そういうの、全部計算してやってるんだろうか、この人。
「朝比奈さん! 俺こういう事は、好きな人としかしたくないんで。どいて下さい!」
「ふーん」
俺の言葉に朝比奈さんが、一瞬だけ鋭い目付きで俺を見下ろした。
しかし、パッといつもの顔に戻ったので、見間違えかとも思う。
「好きな人って……例えばどんなの?」
「……はい?」
「ほら、好きな人って云うのは相手が自分に興味なくても、自分がその人の事を好きだからセックスとか、キスとか許すってこと?」
「ええと、この世界には"両思い"と云う言葉がございまして……」
「さすがにそれは知ってるよ、怜海ちゃん。
好きだから許すってのは、何だかおかしいよ。
だって例え両思いでも相手が"好き"って、言葉にしてくれた気持ちが、その人の本当の気持ちだとは限らないでしょ?」
ちょっと理解力がなくて、朝比奈さんの言ってる意味が分からない。
多分だけど、朝比奈さんが言ってるのは「口では好きって言ってくれたけど、本当の気持ちはその人にしか分かんないよね?」って事だと思う。
いや、同じこと繰り返して言ってるだけな気もする。
だから好きな人にしか許さないってのは、おかしいよって言いたいのかなぁ?
俺は別におかしいと思わないけど、朝比奈さんには何かが引っかかるんだろうなぁ。
「ひねくれてますね?」
「そうかな?思った事を言っただけだよ?」
「俺はそういう意味で好きになった人がいないから、正直心変わりがどうとか分かりません。
だからそうなった時の為に、大事にしておきたいんです」
もう、わけがわからないこと言ってるなぁ。
言いたい事と言葉の齟齬で、上手く伝えられない。朝比奈さんもこの話題で、こんなに病んでる1面見せられても……俺にどうしろと?
「あれー? 怜海ちゃん、ソッチの経験ってもしかして無いの?」
「さぁ、どうでしょうね?」
「えー、でも今の話を聞く感じ……」
朝比奈さん。
俺を壁に追い詰めて、一喜一憂するのはいいんですが、後ろに風紀委員長様がお見えです。
すんごい爽やかな笑顔で、凍り付きそうな冷気を放ってます。
とりあえず俺は被害者だ。
間違ってはない。
ここは被害者面一点張りでいこう。
俺は段々と朝比奈さんに近付いて来る、風紀委員長様の視線から逃れるように朝比奈さんを盾にした。
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