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今、俺は朝比奈さんの話を半分聞き流しながら、某青鬼が追いかけてくるあのBGMが脳内で再生されている。
何故なら視線の先にブリザードを振りまきながら、人間国宝かの如く素晴らしい微笑みを顔に張り付けた、風紀委員長の西園寺様が向かってきているからだ。
「あ、あの……朝比奈さん?」
「んー? やっぱり、怜海ちゃんは処女だった? 気にしなくて大丈夫だよ。優しくするから」
「ほう? 何をどう優しくするのか、俺にも教えてくれないか?」
ひぇぇ……朝比奈さんの肩に腕を回すようにして、がっちりと捕らえた委員長。
肩に手を回してるそのお顔は真顔だ……怖いっ!
俺は悪い事をした訳では無いのに、ガタガタと震える。
その姿を見て委員長は何かを勘違いしたのか、朝比奈さんを俺から思いっきり引き剥がした。
なんて力だこと……。
放心する俺に西園寺さんは、「大丈夫か?」と声をかけてくれる。
「はい……大丈夫です」
今のところは色々と無事です。
そんな余計な事は言えるはずなく、素直にお礼を言う。本当に色素が薄い西園寺さんは、光に当たっているだけで美しい。
イケメンが多いぞこの学園……俺もピラミッドでいうと、中位の位置にはいると思ってたんだけどなぁ。
え……そうでも無いって?
自己評価が高いのはいい事だろ?
そんな現実逃避をしていると、朝比奈さんが委員長のエルボーから抜け出した。
「いったぁい……風紀委員長さん、優しくしてくださいよォ」
「性欲で出来ている猿に配慮が必要だと? 笑わせるな、生徒会役員が堂々と淫行行為をしようとしていたんだ。俺は仕事をしたまで」
委員長は朝比奈さんを鋭く睨みながら言うと、俺の方に視線を向けた。
その瞳には心配の色と、疑いの色が滲んでいる。ああ、そっか……俺が朝比奈さんを誘ったと疑ってるのか?
誘った覚えも無いので、俺は素直に『助けてくれてありがとうございます』と礼を伝えた。
「ええ、怜海ちゃんが裏切った……」
「いや、あなたが襲ってきたんでしょう……」
朝比奈さんは少し口をとがらせながら、落胆している。
そんなことよりも、謹慎処分とか怖くないんだろうか?
「朝比奈はこの後、風紀委員の所まで来るように。そして、山谷はあまり人気のないところをうろつくな」
「いやそれだと、俺死んじゃいます。ずっと走ってなきゃいけないので」
「知らん。この競技を企画した奴にでも文句を言え」
あ、それ俺ですね。
正確には会長のクジ機能なんですけど。
俺は苦笑いを浮かべて『そうですね〜』なんて返す。そんな俺を見た風紀委員長様は、朝比奈さんを引き摺って行ってしまった。
巻くんパニックから、会長壁ドンから。そして発情会計とは、一難去ってまた一難だな。
俺はそんなに、男にモテる要素があるのだろうか?いや、あるか……俺はそこそこの優等生でそこそこのイケメンだから。
ん? 自己評価が高いのはいい事だろ……なァ?
置いていかれた俺は、もそもそと花壇に身を隠しながら、今日録り溜めた写真をファイル分けしていった。
やっぱり、楽しそうな人を見るのって良いよね。
残る制限時間の半分の時間を潰す為、俺はコソコソと隠れ続けるのだった。
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