本編

3/42
1617人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ
 九重ティーチャーの微笑を受け、チワワくん達が悲鳴を漏らしたと思えば、いつも通りにHRが始まった。俺の脳内はもう真っピンクで、顔に出てないのが自分でも不思議な程である。 「はい、お前らそろそろ私語はやめろー」  そう九重先生が言うと衣擦れ1つしない程に、教室は静まり返った。思わず口元が緩んでしまう。 「お前達には言ってなかったが、今日から転入生がこのクラスに入るぞ」  その言葉と同時に再びクラスのチワワくんや、ガチムチな雄が騒ぎ始めた。 「イケメンなのかなぁ!」 「僕っ、親衛隊に入ってるから、イケメンが来ても靡かないようにしなくちゃ!!」 「可愛いのかぁああ!?!?」 「やっと……か……今年の新入生歓迎会は、ケイドロに決まったな……ふふふ腐」  おいっ、最後のやつぅ! 俺と話さないか?  相変わらず元気の良いチワワとガチムチに混ざり、このクラスにいるなりを潜め、いつもはアンダーグラウンドにいる腐男子が顔を覗かせてきた。  これは、期待してもいいのか?  ワクワクキラキラしている、クラスメイトを煩わしく見回した九重先生は、静かになった頃に転入生を呼んだ。  もしかして来るのか?  転入生を初対面で下の名前呼びイベントがぁぁ!  え、待って。転入生がこの場に来るって事は、転入生くん、もう副会長とキスしたのぉぉぉお!?  ねぇ、そのチュッチュした後の唇でこの場所に来るの……?   あぁ、やめてヲタク死んじゃう……供給過多で死んじゃう……ありがとうBLの神よ……!!  俺はクラスの大多数とは違う理由で、ワクワクフンスフンスしていた。  すると、九重先生に呼ばれ控えめに教室に入ってきた転入生は……  黒毬藻ぉぉぉぉ!!  そんで、牛乳瓶メガネぇぇえ!!   今の時代、何処にそれ売ってんのおぉぉ!!  入ってきた転入生を見てどんどんと、脳内でテンションが上がっていく俺に対して、クラスの大多数は突然氷河期が訪れたの如く静まっていく。  そして、嘆きの叫び声が上がる。  その様子を見た転入生は、笑って「仲の良いクラスだなぁ」なんて言っておった。もう、これは確定演出じゃん!!  俺は脳内で、様々なカプが出来上がっていくのを真顔で楽しむ。  あ、そう言えばこのクラスの爽やか君って誰だ?それに一匹狼くんも。  確か隣になるのが王道だよね?  てか、待って。俺の前の席空いてんだけど、これはまさか……目の前に転入生が座るのか? 「適当に自己紹介しておけ、巻」  無心に今の状況を整理していると、九重先生がそう言った。  ん!?!? マキッ?? それって下の名前?  しかもあだ名? 何それぇぇ可愛いぃぃぃ!! フラグぶっ刺していくじゃぁぁん? 「え、そうだな! 俺は、(まき)優太(ゆうた)だ。仲良くしてくれ?」 「え、巻って名字なの?」  俺は自己紹介をした転入生に、思わずツッコミを入れてしまった。  だって、そうじゃん!  あんなに妄想しておいて、名字だったんだぜぇ?ショック!!(理不尽) 「なんだ怜海(さとみ)、俺が下の名前を呼ぶのはお前だけなのにヤキモチか?」 「あはは、伊吹先生違いますよ? 黙ってください?」  転入生ではなく、俺に向かってなにか囀りだした九重Tに、ワザと下の名前で呼びとても胡散臭い笑顔で言い返す。  フラグを俺に突き立てて来るのは、やめなさい?  キャーキャー言ってるクラスメイトを尻目に、俺は困惑気味の転入生に視線を移し、九重先生にどうにかしてくれと先を促す。  どうにかするついでに、俺じゃなくて巻くんを優太呼びしてやれ!  そう願ったが、それは叶わずに九重先生は「巻の席は、今話した怜海の前な?」と言ってHRを続けている。  おかしいなぁ? 名前呼びフラグは、立ってないんだよな。俺は目の前に座る黒毬藻を眺めながら、考え込む。好感度的な問題なのか? 後日、何かしらの接触が九重Tと巻くんの間で起こって、名前呼びになる……とか?  現実世界に、好感度云々が関係するとは限らんが。 「……と言うことで、教職員会議で広報に選ばれたのは、山谷(やまや)怜海(さとみ)に決まった。怜海は放課後、生徒会室に行って生徒会メンバーと顔合わせする様に、って聞いてんのか?」  俺は聞いている風を装い、九重Tを見ていたのだが聞いていない事を見抜かれ目が合った。  なんか、広報に選ばれたとか何とかって……ん?広報?  それって、何代か前の生徒会が人員不足で手が回らず、自然消滅した役職じゃね? やべぇ、なんも聞いてなかったけど、話の流れ的に俺が選ばれたって事でAre you okay? って感じなのだが。  何も言わず口元に笑みを浮かべている俺を見て、九重ティーチャーはため息を付いた。 「広報の仕事については放課後、生徒会メンバーから説明がある。とりあえずお前は今日から役職持ちだ。お前、職員会議で満場一致で選ばれたぞ?なんか手ぇ回したのか?」 「何言ってるんですか、九重先生。俺、外部生ですよ? 成績だけで入学したんで、回せる手も足も無いですよ?」 「成績だけで、ねぇ?」  そう言って意味深に笑い合う俺たちに、腐男子と思える男共が、気持ちの悪い笑みを浮かべている。俺も対象が自分じゃなきゃ、そうなってた。でもまぁ、こういうBLのフラグ建築っぽい経験が出来て、腐男子としては悪くない。  つまり、こういう時に邪魔しないようにすれば、BL(薔薇)が咲くって事だよね?  任せろ? あとこのフラグ、どうしたら折れるかな? 「先生、広報って降りられ無いんですか?」 「無理だな。お前、この前説明した事忘れたのか?」  この前……この前……あー。春休み明けの課題考査で、学年順位が15位以上の者から選ばれるって言ってたっけ。そんで15位以上の者で、推薦されたくない奴は手を挙げろって聞かれた気が……する……。  やっちまったなぁ? 「あー……」 「思い出したみたいだな。幸いにも? お前が辞退しなかったもんだから、今更辞退出来ないぞ?」 「ヴぅ"……ま、まじか……」  確かに学年順位は3位と、5本指に入る順位をおさめた……が!!  辞退するかどうかの話の時に、どうして手を挙げ無かったのかね? 山谷怜海くん? え?   BLで妄想してた?  そうかぁ……それは仕方ないねぇ……ははっ。 「怜海はイイコだから、俺に手間はかけさせないよな?」  そんな俺にトドメでも刺すかのように、九重ティーチャーは笑顔を貼り付けて聞いてくる。  はい……すみません。やります。やればいいのでしょう? やりますよ? 文武両道の怜海くん、やったりますよ!? 「九重先生……今回だけですよ? 次からは何か、ご褒美下さいね?」  九重×巻とか、巻×九重とか……なんなら2人がキスしてるところ壁になって見てるんで、キスしてくれねえかな? 「はいはい。ちゃんと仕事してくれたら、キスでも何でもしてやるよー」  そうさっきの色気をしまい、面倒くさそうに言った。それに、 いちいち反応するチワワくん達。  ははっ……ティーチャー愛されてるぅ。  あと、キスは俺じゃなくて他の奴にしてやれ。  俺は見る専だ!
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!