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九重ティーチャーの微笑を受け、チワワくん達が悲鳴を漏らしたと思えば、いつも通りにHRが始まった。俺の脳内はもう真っピンクで、顔に出てないのが自分でも不思議な程である。
「はい、お前らそろそろ私語はやめろー」
そう九重先生が言うと衣擦れ1つしない程に、教室は静まり返った。思わず口元が緩んでしまう。
「お前達には言ってなかったが、今日から転入生がこのクラスに入るぞ」
その言葉と同時に再びクラスのチワワくんや、ガチムチな雄が騒ぎ始めた。
「イケメンなのかなぁ!」
「僕っ、親衛隊に入ってるから、イケメンが来ても靡かないようにしなくちゃ!!」
「可愛いのかぁああ!?!?」
「やっと……か……今年の新入生歓迎会は、ケイドロに決まったな……ふふふ腐」
おいっ、最後のやつぅ! 俺と話さないか?
相変わらず元気の良いチワワとガチムチに混ざり、このクラスにいるなりを潜め、いつもはアンダーグラウンドにいる腐男子が顔を覗かせてきた。
これは、期待してもいいのか?
ワクワクキラキラしている、クラスメイトを煩わしく見回した九重先生は、静かになった頃に転入生を呼んだ。
もしかして来るのか?
転入生を初対面で下の名前呼びイベントがぁぁ!
え、待って。転入生がこの場に来るって事は、転入生くん、もう副会長とキスしたのぉぉぉお!?
ねぇ、そのチュッチュした後の唇でこの場所に来るの……?
あぁ、やめてヲタク死んじゃう……供給過多で死んじゃう……ありがとうBLの神よ……!!
俺はクラスの大多数とは違う理由で、ワクワクフンスフンスしていた。
すると、九重先生に呼ばれ控えめに教室に入ってきた転入生は……
黒毬藻ぉぉぉぉ!!
そんで、牛乳瓶メガネぇぇえ!!
今の時代、何処にそれ売ってんのおぉぉ!!
入ってきた転入生を見てどんどんと、脳内でテンションが上がっていく俺に対して、クラスの大多数は突然氷河期が訪れたの如く静まっていく。
そして、嘆きの叫び声が上がる。
その様子を見た転入生は、笑って「仲の良いクラスだなぁ」なんて言っておった。もう、これは確定演出じゃん!!
俺は脳内で、様々なカプが出来上がっていくのを真顔で楽しむ。
あ、そう言えばこのクラスの爽やか君って誰だ?それに一匹狼くんも。
確か隣になるのが王道だよね?
てか、待って。俺の前の席空いてんだけど、これはまさか……目の前に転入生が座るのか?
「適当に自己紹介しておけ、巻」
無心に今の状況を整理していると、九重先生がそう言った。
ん!?!? マキッ?? それって下の名前?
しかもあだ名? 何それぇぇ可愛いぃぃぃ!! フラグぶっ刺していくじゃぁぁん?
「え、そうだな! 俺は、巻 優太だ。仲良くしてくれ?」
「え、巻って名字なの?」
俺は自己紹介をした転入生に、思わずツッコミを入れてしまった。
だって、そうじゃん!
あんなに妄想しておいて、名字だったんだぜぇ?ショック!!(理不尽)
「なんだ怜海、俺が下の名前を呼ぶのはお前だけなのにヤキモチか?」
「あはは、伊吹先生違いますよ? 黙ってください?」
転入生ではなく、俺に向かってなにか囀りだした九重Tに、ワザと下の名前で呼びとても胡散臭い笑顔で言い返す。
フラグを俺に突き立てて来るのは、やめなさい?
キャーキャー言ってるクラスメイトを尻目に、俺は困惑気味の転入生に視線を移し、九重先生にどうにかしてくれと先を促す。
どうにかするついでに、俺じゃなくて巻くんを優太呼びしてやれ!
そう願ったが、それは叶わずに九重先生は「巻の席は、今話した怜海の前な?」と言ってHRを続けている。
おかしいなぁ? 名前呼びフラグは、立ってないんだよな。俺は目の前に座る黒毬藻を眺めながら、考え込む。好感度的な問題なのか? 後日、何かしらの接触が九重Tと巻くんの間で起こって、名前呼びになる……とか?
現実世界に、好感度云々が関係するとは限らんが。
「……と言うことで、教職員会議で広報に選ばれたのは、山谷怜海に決まった。怜海は放課後、生徒会室に行って生徒会メンバーと顔合わせする様に、って聞いてんのか?」
俺は聞いている風を装い、九重Tを見ていたのだが聞いていない事を見抜かれ目が合った。
なんか、広報に選ばれたとか何とかって……ん?広報?
それって、何代か前の生徒会が人員不足で手が回らず、自然消滅した役職じゃね? やべぇ、なんも聞いてなかったけど、話の流れ的に俺が選ばれたって事でAre you okay? って感じなのだが。
何も言わず口元に笑みを浮かべている俺を見て、九重ティーチャーはため息を付いた。
「広報の仕事については放課後、生徒会メンバーから説明がある。とりあえずお前は今日から役職持ちだ。お前、職員会議で満場一致で選ばれたぞ?なんか手ぇ回したのか?」
「何言ってるんですか、九重先生。俺、外部生ですよ? 成績だけで入学したんで、回せる手も足も無いですよ?」
「成績だけで、ねぇ?」
そう言って意味深に笑い合う俺たちに、腐男子と思える男共が、気持ちの悪い笑みを浮かべている。俺も対象が自分じゃなきゃ、そうなってた。でもまぁ、こういうBLのフラグ建築っぽい経験が出来て、腐男子としては悪くない。
つまり、こういう時に邪魔しないようにすれば、BLが咲くって事だよね?
任せろ? あとこのフラグ、どうしたら折れるかな?
「先生、広報って降りられ無いんですか?」
「無理だな。お前、この前説明した事忘れたのか?」
この前……この前……あー。春休み明けの課題考査で、学年順位が15位以上の者から選ばれるって言ってたっけ。そんで15位以上の者で、推薦されたくない奴は手を挙げろって聞かれた気が……する……。
やっちまったなぁ?
「あー……」
「思い出したみたいだな。幸いにも? お前が辞退しなかったもんだから、今更辞退出来ないぞ?」
「ヴぅ"……ま、まじか……」
確かに学年順位は3位と、5本指に入る順位をおさめた……が!!
辞退するかどうかの話の時に、どうして手を挙げ無かったのかね? 山谷怜海くん? え?
BLで妄想してた?
そうかぁ……それは仕方ないねぇ……ははっ。
「怜海はイイコだから、俺に手間はかけさせないよな?」
そんな俺にトドメでも刺すかのように、九重ティーチャーは笑顔を貼り付けて聞いてくる。
はい……すみません。やります。やればいいのでしょう? やりますよ? 文武両道の怜海くん、やったりますよ!?
「九重先生……今回だけですよ? 次からは何か、ご褒美下さいね?」
九重×巻とか、巻×九重とか……なんなら2人がキスしてるところ壁になって見てるんで、キスしてくれねえかな?
「はいはい。ちゃんと仕事してくれたら、キスでも何でもしてやるよー」
そうさっきの色気をしまい、面倒くさそうに言った。それに、 いちいち反応するチワワくん達。
ははっ……ティーチャー愛されてるぅ。
あと、キスは俺じゃなくて他の奴にしてやれ。
俺は見る専だ!
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