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新入生歓迎会の企画である鬼ごっこが、今終わりを迎えようとしていた。
俺は生徒会役員として、早々に体育館へ向かっている。
そう、全力疾走をしながら──。
「ぎゃああああああああぁぁぁ! 助けてぇぇ」
「怜海ィィ!! 待てぇぇ!!!」
『怜海さまぁぁぁ、僕の1日を捧げますぅぅ!』
『俺を掘ってくれぇぇぇぇッ!』
待て待て待て! 聞いてない!
花壇のある場所の出入口待ち伏せからの、終了時間まで追いかけっことか!
そう!
写メの画像を整理した後、俺はこっそりと体育館へ向かっていたのだ。
制限時間まで、あと5分くらいの頃合に事件は起こった。
中庭から出ようとした所で、厄災とエンカウントしたのだ。
「あ」
「……怜海ッ! こんな所にいたのかぁ!」
ぱぁぁと顔を輝かせ俺の名を叫ぶのは、厄災こと巻 優太くん。えー、巻優太くんとなっております。
そして巻くんが大声で俺の名前を呼んだことにより、序盤で俺を追い回してきたチワワとゴリラがやってきたのだ。
そして冒頭に戻る。
二次災害どころか、三次災害まで引き起こすとは……さすが王道転入生。
厄災による被害は、俺の足と肺と心臓に主に被っている。あと喉。
「いやぁぁぁぁぁ! 勘弁してくださいぃぃ!」
「怜海ィィ!!」
『怜海さまぁぁ!』
『俺の処(ピー を受け取れぇぇぇ!!!!』
おいっ! 最後の奴ら、聞き捨てならんぞ!
俺はゴリラを掘る趣味はねェェェェ!!
俺はスマホで残り時間を確認して、体育館へ続く長い廊下を駆け抜ける。残り30秒!
この30秒を凌げば、舞台裏の役員達の所に行ける!
俺はギャーギャー言いながら、体育館へ入ってしまう。すると普段はインドアで全く動かないせいか、油断して足をもつれさせてしまった。
ビタンっ、と間抜けに転ぶのを覚悟して、受け身の体制にはいる。
ここで俺がコケるのを、誰かが助けてくれたら惚れてやる……そんな事を考えながらしっかり転びましたとも。ええ、しっかりと。
でも、顔面から転ばなかっただけいいだろう……及第点だ(?)
そして俺がコケた瞬間に、綾弥斗くんと夏弥斗くんが、学園全体放送で終了を告げた。
『しゅーりょー!!』
「みんな、制限時間が経ったよ!」
「いまから15分以内に、体育館へ集合して下さい!」
可愛らしい双子の声が響くと、俺を追っていた巻くんとその他の皆さんは残念そうに叫んだ。
いや、叫ぶんじゃありません。
「はぁ、はぁ、ハァ……逃げ、切った……ハァ」
「怜海、お前すばしっこいなあ!」
コケた体制で這いつくばり息からがらな俺に対して、あんだけ猛スピードで走っていた巻くんはケロッとしている。解せんな。
そして俺の横にヤンキー座りでしゃがみこむと、倒れた俺を抱き上げるようにして起こしてくれた。
普段なら、きゃー、力持ち(ハ-ト) みたいな反応をしていたと思うが、スタミナの尽きた俺はされるがままだ。
「ありがと、巻く……ん!?!?」
「おう! 気にすんな……って、どうした?」
起き上がって巻くんを見ると、目の前の人物と記憶の人物が一致せず、思わずその顔を凝視してしまった。
だって、目の前にはもじゃもじゃ牛乳瓶ではなく、銀髪の碧眼がいたのだから───。
「ま、ま、ま、巻くん……ダヨネ?」
「ん、どうした?」
「いや、多分だけどカツラとかメガネとか……どこかに落としてないカナッテ?」
言葉を選びすぎて片言になりながら、スマホの内カメで巻くんの姿を映してやる。
「あ"ッッ」
やべぇ、と分かりやすく固まった巻くん。
俺はそっと、彼から目を逸らした。
気まずい、とても気まずい……取り敢えず、周りの目が痛いので、その場を離れることにした。
巻くんを置いて。
「あ、ちょ、怜海!? 置いてくなァ!」
「あー、聞こえない、聞こえない! あー!」
耳を塞ぎながら、役員室へ向かう。
双子と会長、副会長の声が聞こえるので、他の皆もそろそろやって来るだろう。
そんな現実逃避虚しく、馬鹿力と顔面美を武器に巻くんが迫ってきた。
ここは役員室へ繋がる、舞台裏の細い通路。
はい、見事な壁ドンをくらいました。
てか、今日何回目だよ!? 壁ドンDayなのか?
「あ、あの、怜海! 隠してた事は謝るからッ、避けないでくれ! 頼む! 嫌いにならないでくれ!」
「は? なんで嫌いになるの……?」
「へ? だって怜海、俺の顔見て去っていったじゃん!」
捨てられた子犬みたいな顔をして、巻くんは俺の肩を掴んでくる。……めっちゃ、痛い。
顔は犬で、力はゴリラらしい。
「あー、それはホラ、アレダヨー、アレ、アレ」
「ん? おお! アレか!」
「う、うん、そうそう、アレ!」
「なんだ……良かった、怜海は……可愛いな」
「そそそそそ、そ、そうかなっ……はは、はは……はは、は」
なんで!! 会話!! 出来てんの!?
『アレ』をどんな受け取り方したんだ!?
どれだ? なんだ?
何故か会話が繋がってしまい、巻くんは顔面美をやわやわと、だらしなくさせている。
ほんとに、どんな受け取り方したんだ……。
聞きたいけど、怖くて聞けない……!!
とはいえ取り敢えず一段落した様なので、巻くんを一般生徒席に行くよう促して俺は役員室へ急いだ。
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