本編

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めちゃくちゃ急だが、夢を見た。 それも、めちゃくちゃネガティブなやつ。 朝っぱらからなんなんだ!? と、キレそうになったが抑える。俺、偉い。 今の俺らしくも無いけど、それでも俺の本質を突いたような夢。そんな病んでる感じの夢を見て、俺はため息を吐き出した。 とはいえ、正直なところ……あんまり内容は覚えてない。 でも凄く胸が苦しくて、何に対してなのか分からない罪悪感が不快だ。 何となくうっすらと覚えている夢の内容は、小中学生だった時の記憶。俺は小中と根暗でめちゃくちゃ人見知りで、それでもクラスの中には友達がいる。 居場所もちゃんとある、そんな生徒だった。 人付き合いは苦手だけど、疎かにしてはいなかったと自分で思ってる。 それでも、俺は学校をよく休んでいた。 親に仮病を使ってまで。 学校は正直な所、面倒臭く嫌いだった。 それ以前に家の"自分の部屋"が、好きすぎたのかもしれない。 知らないうちに、内なるオタク魂を育てていたのかもしれないなぁ。無意識に……さすが俺? だからまぁ、学校に行くのはいつも憂鬱で、でも学校で虐められている訳でもない。友達も多いとは言えないけど、少なくもない位にはいた。 クラスの全員と普通に話してたし、クラスの皆が嫌っているような人とも俺は普通に接してた。 だから、学校を休む理由がない。 そう本当に、精神的に追い詰められてるわけじゃなかった。でも学校や学校という空間が嫌いで、俺は仮病を使ってまで休んでいた。 4日に1・2日くらい休んでは、また3日学校に行って、また休む。そんな感じの生活を、ずっと繰り返してた記憶だ。 親や先生には、体が弱い子っていう認定を受けてた筈だ。実際は、ただの怠惰だった訳だが……。 そんな生活を続けていると、たまに思うことがある。 ……言葉が適切でないと、前置きをしておくが。 いわゆる黒判定の人は、妥協した態度で接してもらえる。 そして白判定の人は、周りと同じく完璧と呼ばれる成果を求められる。 じゃあ、グレーの俺は? それが俺が良く思っていたこと。 毎日毎日、しっかり学校に通って授業を受けて。それが当たり前にできる白判定の子達は、いわゆる普通になっていくのだろう。 それが善か悪かはわからない、今はそんな話をしたいわけじゃない。 逆に白判定の子達から外れてしまった、黒判定の子達は出来損ないなのだろうか? それは多分、人間を個として見たらそうでもないけれど、全体的な数値を出した時に、出来損ないと言われる、多分そうだ。 なんかさぁ、それって狡くね? とも思うわけ。 でも白には白の、黒には黒の、それぞれの期待値がある。言葉は悪いかもしれないが、白には白のフィルターがかけられて、黒には黒のフィルターがかけられる、そんなイメージ。 じゃあ、何もかもが中途半端な俺は何なんだろう? 日々憂鬱に過ごしている俺は、救いようがないのだろうか? 学校を休んでしまった日は、いつもそんなことを考えていた。 我ながら、病んでんなぁ、とは思う。 若かりし日の黒歴史よ。右腕が疼く(?) そんで、この悩みに答えはないんだと思う。 いや、自分が納得できるような答えがない、その方が正しいかもしれない。 まぁ、朝からこんな暗い夢を見たんだ。 そりゃ多少、萎えるってもんよ。 あーあ、新年度一発目の大型行事が終わって、疲れがどっと出たのかもしれないなぁ。 らしくない、らしくない! 過去は過去だし、今はBLという自分の糧になるモノが出来たんだ。きっと、毎日を憂鬱に過ごしてた自分よりも、今こうして自分に自信を持って過ごせてる今の方がいい。 こう……なんていうの? ちゃんと、人間してる、って感じがする? こう言っちゃなんだが、人間なんだから娯楽に勤しんで、どんどん楽な方に流されて生きてこうぜ? さてと朝の3時か、微妙な時間に目が覚めたな……。 色々考えて覚醒しちゃったし、学園ホームページに載せる記事と、学園内新聞の記事を進めていこう。 思い立ったが吉日。 ベッドから這い出て、リビングとして使っている部屋へ向かう。ほぼルーティンのようにホットミルクを作り、糖分補給用のチョコ菓子を少量用意した。 集中する時の、俺の戦闘スタイルである。 異論は認める。 たまにこのチョコ菓子が、柳田さんに貰ったお菓子に変わったりもする。 柳田さんのクッキー、めちゃくちゃ美味しいんだよ。 「よし、じゃあ……やりますかねぇ」 気合いを入れる意味合いを含め呟き、PCを起動した。 ▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀ 「失礼しまーす」 「山谷か、どうした? サボりか?」 保健室のドアを開けて、中を覗き込むようにして伺う。すると長い足を組み、コーヒーの入ったマグカップを口元に持っていくアキちゃんと目が合った。 相変わらず、脱力感満載の保健医である。 いつも顎にかけてるマスクが、そんな印象を持たせてるのか? ちゃんとマスクしてる所、見た事ないんだけど。 「サボりじゃないよ、会計様の使いっ走り〜」 朝比奈さんに頼まれた、経費で落とした保健室備品の領収書を預かりにきた。 一大イベントが終わったら、生徒会は余韻を楽しむ余裕はない。 とっとと、いつもの仕事をこなしている。 庶務と副会長が、会長代理として会長の仕事を一緒に片付けていた。 俺は勿論、ホームページと新聞の記事を書いている。柳田さんに文を整えて貰いながら、記事を書いているんだが、仕事をやっている生徒会メンバーを他所に遊んでいる気がして、アウェイ感をひしひしと感じている。 「仕事だから、気にする必要ないだろ?」 「そうなんですけど、気持ち的に落ち着かない」 「難儀だな」 「本当に」 アキちゃん先生は、うだうだと言っている俺にカフェオレを出してくれた。 これも経費で買ってんのかなぁ……なんて考えたのが伝わったのか、『私物だ』なんて聞いてもないのに教えてくれた。 閑話休題。 新歓が終わって、クラスも色々と変わった。 特に、巻くん周りの関係が変わった。 まあ……本人が変わったから、あたり前だけど。 巻くんに親衛隊が出来て、その親衛隊が過激なのだ。巻くんと誰かが話してたら、周りに聞こえるように相手の悪口を言う。 巻くんが、ヤメろと止めさせるも、注意された方は巻くんに話しかけて貰えたと、的外れにも喜んでしまうのだ。だから、他の人も同じことを繰り返す、巻くんに話しかけてもらいたいが為に。 それは、大声で悪口だけに留まっていない。 巻くんは正義感溢れるタイプの人間だから、人が困ってたら声をかける。たとえ、それが知らない人でも。そして、困らせてる方を叱る。 もう、むっちゃ陰湿!! その、方程式がどの現象にも当てはまるのが、巻くん。だから頭の働く1部の害悪チワワは、巻くんの親衛隊となり堂々と人を傷付けて虐める。 巻くんに注意されれば喜び、注意されなくても虐めを楽しむ。 害悪チワワ達にとって、巻くんはいてもいなくてもいいカモ。巻くんの"民度の低い親衛隊"に(かこつ)けて、好き勝手してるのだ。 しかし巻くんの自称親衛隊の方々は、いつも一緒にいる翔太や大牙には文句を言わない。イケメンには、突っかかっていかないのがまた嫌らしい。 そして教室の端で『不穏だなぁ』なんて考えながら、渦中には近付かない俺。 それと同時に、白判定の生徒が黒判定になる様子をリアルで見ている。 この状況が気持ち悪かった。 虐めた方は白なのに、虐められる方が黒に染まっていく。寝起きの夢の憂鬱感が、ずっと続いていた。俺は別に正義の味方とかじゃないし、なんなら人間としてはクズ側の人間だと思う。 だから、どうにかしようと動く気は無いが、考えはする。見て見ぬふりしてる、ともいう。 今の俺の立場は、虐めている人間の次に悪いんだろうなぁ、なんて考える。 そんな一連の話を、アキちゃんに愚痴った。 アキちゃん自体はどうでも良さそうだが、俺の話の節々で相槌を打ってくれる。 一応、話は聞いているらしい。 「本当に難儀な性格してんな、お前」 「……仰る通りです。ここでグチグチ言うより、行動しろよって、あー」 カフェオレの入ったマグカップを、ゆらゆらとさせながら呟く。そんな俺を見てアキちゃんが、ふむ、と考える。 「まあ、見て見ぬふりは、あんまり褒められた行為じゃねぇな」 「う……分かってますよ」 「でも、お前はこうやって、俺に相談しに来たじゃねーか? あとは俺が九重先生に、この相談内容を伝えるだけだ」 「え?」 アキちゃんはずずずっと、コーヒーを飲む。 そして呆けた俺の頭に手を置くと、ワシワシと撫でた。なんだ? 「こんな感じだが、俺は保健医兼カウンセラーだ。生徒の悩みがクラス内の出来事なら、それを解決するために俺は担任に報告する必要がある。まぁ、だから何だ? お前の判断は間違ってはいない」 ニヤリと悪どい笑みを浮かべながらも、アキちゃん先生は俺の頭を撫で回している。猫か俺は。 でもまぁ、ココ最近の杞憂も何となく紛れた。 相談したつもりは無かったけど、思ってることを言語化して誰かに伝えるって大事だな。 こんな脱力系保健医も、ちゃんと仕事してる事が分かったし。 「あ」 「ん?」 「アキちゃん……今、何時?」 「14時過ぎだ、なにかあるのか?」 「やばい! 生徒会会議ィィイ!!!!」 「うお!」 ガバッと立ち上がった俺に、アキちゃんは珍しく驚いていたが、それどころでは無い。気づかないうちに、こんなに時間が経っていたのかぁぁぁ! 「アキちゃん! 会長に殺されるので、コレで失礼しますっっ!」 「おい、ちょっと──」 「すみません、会長にアイアンクローをかまされるのでっっっ!」 じゃ! と、全速力で生徒会室へ向かう俺の背中に、アキちゃんがひとこと呟いた。 「お前……領収書……」 しかし、ピンチな俺にその声が届くはずも無く……二重の意味で会長に半殺しにされるのであった。
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