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「なぁ? お前ってなんて言う名前?」
はい、目の前で黒毬藻くんこと巻くんが、爽やかくんこと漣翔太君に話かけている。
いやぁ、巻くん……可愛いねぇ。
この子の辞書には、コミュ障とか人見知りって言葉は無いみたいだぁ。
HRが終わって次の時間までの休憩時間に、直ぐに隣に話しかけ回ってるよ。
あと、めちゃくちゃ声デカい。流石、王道くん
それにしても、漣くんの非公式親衛隊って基本的に温厚な人の集まりって聞いてたけど、そんな優しいチワワくん達が顔を顰める位にはズケズケと遠慮なく話かけている。
漣くんは嫌な顔せず、三〇矢サイダーみたいな爽やかさで、自己紹介している。
「巻くんだっけ、よろしくねー?」
「うん! 席近いんだし、優太って呼んでくれ!」
いや、席の近さ関係ねーw
薄い理由で、下の名前呼びを許可している巻くんに俺は思わず、目を見張って口元を緩めてしまう。おっと……誰にも見られてないよな?
「優太ね、りょうかい」
「おー! 俺も翔太って呼んでもいいか?」
「うん。別にいいよ」
「じゃ、そうする」
そんな初めましての2人の会話を、賑やかな教室全体を見ている振りをして聞いていると。
巻くんの左隣に座る、一匹狼が視線に入った。
うわ、ピアスバッチバチでいかにも、攻めって感じでいいね。
普段から人間観察で1日が終わっている俺にとって、クラスメイトの名前を覚えるのは朝飯前って言いたいんだが……そうもいかない。
誰とも喋らない奴の名前とか、オラ分かんねぇんだ。この一匹狼くんの名前なんだっけ?
確かこのクラスになった日に、みんな自己紹介したから聞いた事ある筈なんだけど……。
そんな事を考え、一匹狼くんの斜め後ろから見える横顔を眺める。
すると、一匹狼くんと目があってしまった。
直ぐにそらされるのかと思ったが、向こうも俺を見ている。え、何? 俺何かした!?
とりあえずアレだ、笑って誤魔化すだな。
ニコッと笑って誤魔化すと、一匹狼くんは驚いて顔を元に戻した。なんやねん!!!
少しばかり、寂しい思いをしたがフラグは俺に向かっては立ってないはず。
「んで、お前はなんて名前?」
お! 巻くんナイス!
一匹狼くんに巻くんが話かけた。
コレで名前がわかる。
「……佐藤」
!?!?!?
え、貴方モブですか? 佐藤って、モブなのかい? なんでそんな一般的な名字なのさ?
「佐藤か! 俺は巻 優太! 優太って呼んでくれ」
「…………」
「佐藤、お前下の名前はなんて言うんだ? 」
「大牙……適当に好きに呼べ。あと、お前煩い」
「おう! じゃあ、大牙って呼ばせて貰う! よろしくな!」
声の大きさを指摘されても、巻くんはそこの部分だけ聞こえていない様で、大牙くんは顔を顰めて巻くんを見た。
そして視線を外してふて寝した。
いや、オモろw
巻くんって結構楽しい性格してるな。
くつくつと心の中で笑っていると、巻くんがバッッッ!! と効果音がつきそうな位に、勢いよく振り向いた。
え、まさか……ね?
「君、なんて名前?」
あ"あ"ぁぁ"!! 違うんですよ!!!
腐男子の皆さんっ!!
俺、何もしてないから!!!!
だからそんなに、俺を心底嫌そうに見ないで!
分かってる、俺も分かってるんだよ!!
転入生の巻 優太くんは、総受けルートが1番正解ルートだって事も、黒毬藻メガネの下はめちゃくちゃイケメン美人男子って事もさぁぁ???
(見ては無い)(憶測でしかない)
「……ん?」
先を促してくる巻くんに、俺は顔が引き攣るのが自分で分かる。それと同時に、周りの目線が痛くなるのも分かる。
「お、俺は……えっ……と、や、山谷怜海だよ〜。よ、よろしく〜」
俺は顔が引き攣り吃るのを無理やり、必殺︰優等生スマイルで乗り切る。
出来るだけ近くで君達のイチャイチャを見てたいだけだから、よろしくしなくてもいいんだよ〜、と心の中で言っておく。
口に出せないのは、ひよってる訳では断じて無い!!
「……っ!!」
「ん?」
俺が心の中で、同胞に対する土下座99%と放課後に広報として、生徒会室に行かないといけないって事1%に頭を悩ませていると、巻くんが真っ赤になって固まっていた。あれ?
なんだ? と思ってチラリと漣くんを盗み見る。すると、漣くんも驚いた様に目を見張っていた。
ん?
今度は大牙の方を見る。
すると、目が合った。
そして顔が真っ赤で、逃げるように顔を再び逸らされた。え、泣くぞ?
いや、そうじゃなくて……。
俺、やっちゃった? なんかやってしまった?
そんな現実逃避を他所に、俺の顔は優等生スマイルを貼り付けている。とり敢えず、自己紹介から話を進めよう……うん。
「えーっと、巻 優太くんだったかな? 俺は、巻くんって呼んでもいい?」
「へ? あ、お、おう! 優太でもいい……けど」
「うーん。巻くんって語感が好きだから、コッチで呼ばせて貰うねー」
いや総受け様の下の名を呼ぶなぞ、出来ますまい!
ニコニコと猫被りスマイルを絶やさず、俺はじゃ! と元気良く教室の外に避難した。
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