本編

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side 山谷怜海の親衛隊 新栄(しんえい) (あおい) いつも席に座り、たまに長い足を組んでいる山谷様。今日もいつものように、穏やかな美しい表情でクラスメイトを観察しておられます。 とても、顔面の創りが良いです。 黒のサラ艶っとした髪の毛は、センターパートに形作られてクリっとした瞳は、山谷様の中性的なお顔をより加速させています。圧倒的な美人。 語彙力が無いのは承知しておりますが、これ程まで自分の語彙の少なさに腹立たしく思う事はございません。 今日も非公式な親衛隊として、こっそり山谷様の一挙一動を観察しておりますと、ガラリと担任の九重先生が入って来ました。 すると、山谷様は穏やかな表情をほんの僅か程度崩して、嬉しそうに微笑されました。 …………僕のライフはもうゼロです。 尊い、死ぬ。 そんな考えを断ち切るように、九重先生は転入生がやって来る事を連絡しました。 どうでもいいですが、気にはなります。 山谷様の美しさの布教をしてみましょうか? しかし、教室へ入ってきた転入生を見て、僕は戦慄してしまいました……。 あの冴えない毬藻が、転入生?と。この学園は、緩くとも校則はあります。身だしなみまで指す様なものはありませんが、ここに居る皆は大手企業の子息や政治家の子息なども通っています。 その為、最低限TPOに沿った服装や髪型、また着崩したとしても人前に立つのに恥ずかしい格好は致しません。 しかし、この黒毬藻はその当たり前すら出来ていないのです。 僕は少し、いや。とても不快になりました。 目を閉じて、彼を視界から追い出すと自己紹介をする様です。 九重先生が巻と、呼んでいましたね? 僕は彼の名前を適当に聞き流すつもりでした。 しかし、その予定は山谷様のお声が聞こえた為、叶いませんでした。 「え、巻って名字なの?」 なんとも驚いた様子で仰る山谷様は、とても可愛いらしいです。九重先生はそんな山谷様を揶揄って、冗談半分本気半分と言った様子で山谷様と言い合っています。 おっと、誰です? 『旦那と嫁が喧嘩してる』なんて呟いたのは? 親衛隊を持つもの同士が揶揄い合うのは黙認できますが、てめぇはダメです。 考えを巡らせている間にどんどんと、HRは進んでいきます。すると、広報に山谷様が選ばれたそうです。常にクラスメイトの観察をしている山谷様には、ピッタリの役職でしょう。 流石、学園の教師達です。 生徒会に比べ権力は無いですが、結局の所は責任者である事に違いはありません。 正しい判断だと思います。 広報と言うことは、情報が大事になってきますね? 山谷様の為に正しい情報を仕入れて、提供出来たらいいかもしれないですね。 少し隊長に報告してみますか。 HRが終わり、休み時間。 山谷様の前の席に座った黒毬藻にとても不快な声で、漣さんと佐藤さんが話掛けられていました。 2人の親衛隊が少しばかり、不愉快そうなのが気の毒です。特に優しい子達が多い漣さんの親衛隊が、珍しく顔に出す程です。 とは言え、他人事だと思ってはいけません。 ああ、ほら山谷様にまで絡んで……っ!?!? ………………っぶねぇ!!! 山谷様……その笑顔は反則です……っ……思わず山谷様に向けてはいけない感情が、顔を覗かせるところでした。 それにさっきまで黒毬藻が山谷様に近付くに連れて、殺気を飛ばしていた親衛隊のメンバーが、皆真っ赤になって固まってしまってます。 そして、あらあら。 漣さんは耳を佐藤さんは顔全体を赤く染めて、硬直していますね。 ああ、何人か前屈みにトイレへ行きましたね? アイツらは後でシャーペンの芯を、全部抜いておきます。ついでに、予備のシャー芯も全て折っておきましょう。 どうせ、ここにいる大多数は金持ちです。 明日には、そのくらいは補充しているでしょうし。他の親衛隊に比べ僕らは、非公式な上暴力的な制裁は嫌っています。 ですので、地味に嫌な制裁を……ふふふ。 黒い笑みを浮かべながら、自覚出来ず困惑気味の山谷様を観察していると、気を使って教室の外へ出ていってしまいました。 しかし、レアな山谷様のお顔が見られたので、黒毬藻には一応感謝しておきます。
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