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いやぁぁ……どーしようかねぇ?
俺は今、トイレの隣にある化粧室に来ていた。
なんかここ豪華でメイク落としとか、トラベル用の化粧水とかあるんだよ。金持ちってすげーな。そんな事を頭の隅に、俺はこれからのドキドキワクワク学園ライフの危機に陥っていた。
いや、だって王道って感じの転入生だったからさ、九重ティーチャーの下の名前呼びイベ、あるのかなぁって思うじゃん?
それに席の両隣に爽やかと狼が居ればそれはもう、確定じゃ無いの?
まさか後ろの席の、人物Aにまで名前を聞いてくるなんて……ある意味、尊敬だな。
でもやっぱり、現実と創作物じゃ全く同じ様にはならねぇんだな。
いや逆に、よくここまでテンプレに沿ってある程度進んだよ。それに俺の腐男子魂が告げている。
今日、俺に向かって何本かフラグが立ってしまったと……。
いや、何故に?
しかし気を落としていても仕方がないし、取り敢えず化粧水と乳液で肌を潤そう。
目の前にあるお高めの化粧水を遠慮なく開けて中身を手に取る。
アメニティっていうの? こういうのって貧乏性が出て、持って帰りたくなるのは俺だけ?
そんな事を考えながら適当に顔に塗りたくり、少し濡れた前髪を掻き分けてトラベル用のヘアオイルで整える。よしっ、切り替え完了!
俺、イケメン! カッコイイ!(うるさい)
ルンルン気分で教室に戻ると、相変わらず巻くんは声がデカかった。
教室の外まで楽しそうな声が聞こえてきた……ははは。
▶◀▶◀▶◀
王道転入生と出会った嬉しさと、生徒会という組織にお世話にならなきゃいけない事で、午前中は微妙な感情だった。
放課後が近付くに連れて、気が重くなる。
時計をチラッと確認して、チャイムがなるのを待つ。ホワイトボードに書かれた、数学の先生の殴り書きの板書を終え。
チャイムがなると同時に皆、起立する。
そして適当に挨拶をして、伸びをする!
あ"あ"ぁ!!
腰から鳴ってはいけない音が聞こえたっ……!
そんな感じで、食堂へ昼食を取りに行こうとして声を掛けられた。
はい、そうです。巻くんにです。
「な、なぁ! 怜海、良かったら俺達と昼食取らね……食堂に行ってみたいんだけど?」
「あー、ごめんね、先約があるんだ! 案内は2人に頼むと良いよ! 後日、また誘ってね!」
速攻で断り、ニコッと「もう話しかけて来るなよ?」という圧を残して、食堂へ向かう。
巻くんが、何故か赤くなっていたのはこの際、見なかった事にして。記憶を消しておく!!
食堂のある1階に降りて、先約の相手を探す。
さすがに、この時間帯は混むなぁ……っといたいた!
「透きゅーん! 久しぶりー!」
そう言って大きい柱の前で、スマホを弄りながら俺を待っているであろう人物に声をかける。
久しぶりと言っても、今朝合ったばかりである。
と、いうか寮で同室の、オトモダチともいう!!
「……うるせぇ」
「いやーん。マイハニー、その言い方は無いだろう?(棒)」
「ダーリン、喉仏を押し潰されたくなかったら、黙ってくれるよな?」
「いっっや、怖っ!」
真顔でそう告げてくるこの男は、俺の同室であり俺の趣味を理解してくれている唯一の人物でもあるのだ!
名前は波柴透。
1年の頃は同じクラスだったが、2年になってクラスが離れてしまった。
俺は友達と呼べる人が、不覚にもコイツしか居ない為、今のクラスではミステリアスキャラを演じている。つまり陰キャボッチである。
あ、なんだ? 俺は悲しくないぞ?
悲しいなんて、思ったことないからな!?!?
「今日の日替わり何かなぁ?」
俺と透は適当な机を陣取り、タッチパネルを操作する。金持ち学園ってすげーよなぁ。
食堂も披露宴会場かよ、とツッコミたくなるくらい、でけぇのなんのって。庶民生まれ庶民育ちの俺には、卒業まで慣れる事は無いだろうな……毎日来てるけども。
あ、因みに余談だけど俺の食費は一万円いかない。それに俺は外部生で成績だけで入学した所謂、特待生の部類に入るから学費が免除されている。それに実家からの水やレトルト食品の仕送りもある為、食費は此処で食べるこのサイフに優しい値段(¥150)の、激安日替わりランチで消費される。
こんなに安いのって多分、他の料理が高過ぎるからこんだけ安くしても大丈夫なんだろうなぁ……。誰が頼むのか分からないけど、フルコースとか一応メニューには載っているのだ。
それだけじゃなく、パスタとかグラタンとか和食とかもある。作る人が大変だろうなぁ。
俺は想像して、思わず苦笑いを浮かべてしまう。
俺はタッチパネルを操作して、生徒手帳の代わりの寮のカードキーをパネルに翳して読み取らせる。
便利だよね、このカードキー。
この中には生徒情報が入っていて、他にも学園内にあるコンビニや食堂で使用出来るクレジットカードの役目もある。このカードキーを持ち歩く事が、校則になるほど重要な物だったりする。
一般生徒は銀のカードに黒字で、生徒ナンバーと部屋の番号が記載されている。
役職持ちになると、黒のカードになるらしく俺は見た事が無いから分からないがスマートな感じになるらしい……てか。
俺、今日から役職持ちじゃん! てことは、部屋も役職持ちの棟に移動になるのかな?
え、透きゅんと離れることになるのですかい? それは寂しいなぁ。
俺は未だタッチパネルを見て、料理を選んでいる透を眺める。本当に深い青色の髪とキリッとした瞳が、イケメンを引き立てていらっしゃる。
あ、俺があげたピアスしてくれてんだ。
なんか嬉しいねぇ。
透に俺と色違いのピアスをあげた時は、少し怪訝な顔をしてたけどやっぱり暗い青の髪には、白が映えていい感じだ。
「……なんだ?」
「いや、ピアス似合ってんな〜ってのと、イケメンで腹立つなぁって思って?」
「まあお前に言われなくとも、ぽっと出のモデルよりも、顔が良い自信がある」
そう言って不敵に口角を吊り上げる透に、思わず顔を顰めてしまった。
なんか、『波山供給助かる』なんて聞こえたが、誰だ?
お前が大事に使ってた、新品の消しゴムの角を全部使うぞ?
「なんかさ俺、お前の顔面見てたら自分の顔面に自信なくすわ……」
「はいはい、かっこいいかっこいい」
「ひでぇな、おい」
透はやっと食べたい料理が決まったのか、カードキーをパネルに翳した。
2人で雑談しながら食事を待っていると、突然チワワくん達の叫び声が鳴り響く。
何?誰が倒れたりしたの……? 保険医呼ぶ?
少し心配になり声の方向へ視線を投げかけると、そこには……生徒会御一行様がいらっしゃっていた。
ああ……テンプレである。
心配して損した気がする……。でも、チワワくん達が楽しそうだからいいか……だがしかーし。
俺にとっては、放課後会うはずだったボス達を今見ることになり、少しばかり萎えている。
けれど、身体は正直な様で転入生を、キョロキョロと探してしまっている。
え、何処? 居なくね?
そう探すウチにも、生徒会御一行はコチラに近付いてくる。え!? なんでコッチくんの??
しかし、段々と進路がそれて……隣の机の人物達に絡み始めた。
いや……巻くん。お主、隣のテーブルに居たのか……全く気付かなかったのだが。
だけどもコレは、もしやチャンスなのでは無いか? こんなに近くで、しかも話し声もしっかり聞こえるこの場所は、そう!
モブとして、とても美味しい位置なのでは!?
阿鼻叫喚の食堂は生徒会長様が、「黙れ」と言った事で静かになった。すげーな。
バルス! 的なアレを感じた。
というか俺、完全にこの『お昼だよ!生徒会全員集合!』イベントを忘れていたな。
腐男子失格かもしれない……けれどこの状況は楽しませて貰うぞっっ!!!!
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