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第九話
事が動き出したのは、二日後。
「だからー、元気なんだから、帰んだよ」
でっかい声が廊下にまで漏れていた。
婆ちゃん、帰ると言ってきかないのだ。
術後まだ五日、足なんか動くはずがない。
それに腕も動かないのだ、痛みも相当あるはずだ。
膝はボーリングの玉みたいに固定され。足も動かないように固定されたままだ。まだおしっこの管もついたままだというのに。
俺を見ると、晃来たか、帰りたいんだ手伝ってくれという。
あと二週間は無理というと。
ニッと、いつもの何かをやらかすような、いつもの笑顔をした。
あーあという千晶と咲さん。俺、まずいこと言った?
「何が一か月じゃ、二週間したら帰るぞ」
「帰るって、歩けないのよ、どうするの?」
「片方あるんじゃどうにでもなるわい」
もう、いらないこと言ってと千晶に怒られた。
お前ら帰れ、完全看護だからここはイイという婆ちゃんは俺にここに座って、今起きていることをすべて話せという。
ため息とともに二人は出て行った。俺は椅子を婆ちゃんの側に動かし座った。
「祐のところに古田が来たのは聞いたな」
うんとうなずいた。
古田が狙っているのは、婆ちゃんと杉の資産。
…?
しばらくすると婆ちゃんは笑い始めた。
「資産?どこにそんなもんがあるんじゃ」
腹を抱え笑っている。
「組んでるのは建設会社熊野組と不動産屋、上田一志」
「熊野組?まさか、信夫」
「そうです、彼らは、あなたの持っている不動産に目を付けた、それは、あなたが信頼していた上田さんとの関係です」
信頼していたからこそ、「頼むわ」、「いいよ」の一声で片づけられていた。
「どういうことだ?」
「いいか、しっかり聞いてくれ」
上田達息子は、その会話を聞き、婆ちゃんは、何も把握していないと踏んだ。
土地の大きさ、それを微々たる数字の改ざんで、彼らが自分の懐に入れていた。
婆ちゃんの唇がかすかにふるえていた。
「今、弁護士立会いの下、ちゃんとした人に土地の事を聞いている、そこでだ、婆ちゃん悪いが」
「遺書の開封か?」
「うん、頼みたい、それも早急に」
なんでだ?
婆ちゃんが死んだときあいつらは動き出す、土地は自分の物だと言い張るだろう、それを支持していたのが古田。
「千晶と結婚した時、あいつは静かすぎた」
婚約破棄だなんだかんだで、慰謝料請求をしてくるんじゃないかと千晶は言っていたが、俺はそんなことはないとのほほーンと今まで来た。
父親たち、次々と付く政治家はやめていき、自分もいつか首になると普通なら思う。
だから。仕事にしがみつき、今までやってきたんだと、俺たちはそういう目で古田を見ていた。
でも違うようだ。
婆ちゃんが死んだとき、あいつは、千晶にすべてを吹っかけ、俺たちを破滅させるのが狙いのようだ。
すると婆ちゃんは手を伸ばしてきた。
震えるしわくちゃの手をさすりながら、そんなことはさせない、俺が守ると言ったはずだというと、婆ちゃんの目から光るものが流れた。
とにかく今は、杉の従業員たちも海面下で動いている。
祐や尚、婆ちゃんに救われたものたちがみんなで手伝ってくれている話をした。
「だから、ここで負けていられないんだ、しっかり治して早く出てきてくれ、みんな待ってるよ、おお婆ちゃん」
うん、うんとうなずく彼女。
俺は婆ちゃんに包み隠さず話した。
そのうちに戻って来た咲さんに
後をお願いして病室を出た。
電話が鳴った。
「よう、珍しいな、どうした?」
今どこ?
婆ちゃんの病院。
今すぐ店にこれるかと言われ、俺は走り出した。
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