スクープ1 婆ちゃんの置き土産

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スクープ1 婆ちゃんの置き土産

 俺と千晶が結婚して四年がたった、俺も三十になって、子供も二人目が出来た。 俺は幸せに浸っていた。  山あり谷、谷、谷のどん底で拾い上げてくれた、妻の千晶。それからは一歩一歩上を見上げてきたつもりだ。  俺が守るなんてでかい口を吐いたために千晶には辛い思いをさせてしまったんじゃないかとたまに思う。 「はいよこれ」 なんだこれ? 「柴田さんこれなんですか?」 紙袋には、紙? 「お前んとこのチビに頼まれた、裏が白い紙くれってな、シュレッダーにかけるのは処分したから、これは大丈夫な奴だ」 チビとは? えーと嫁さんの弟の下の子だよ。 尚? 学校で使うんだとよ。 はて?何に使うのやら。 とりあえずありがとうともらっておいた。 「晃さーん、文化部から、すぐにこいだって」 はー? もうと思いながら一つ上の階へ向かう。 そこでも渡された段箱。 「尚君から頼まれた、いいぞ、リサイクルだ」 へ?こんなに? とにかくどうもと言って下へ戻ると俺の机の周りには、ごみ?とおぼしきものが大量に置かれていた。 はー、仕方がないと、車を借りようか、それとも杉に来てもらおうか?頼んだら金が発生するだろうか?悩んでいると電話が入った。 俺は相棒を手にして、後ろからの声にもこたえることなく、飛び出した。 毎日を淡々と過ごしていて、自分の近い所にいる人は、いつまでも一緒にいて、怪我も病気もすることなんて、それが起きるまで気づきもしない。 千晶の一番大切な人がまた、この世を去った。 あっという間に過ぎた日々、子供も大きくなり、本当に俺は父親になったのだろうかと、埼玉ではあるが東京に近いこの場所で、それも一等地の土地の付いたでかい家の縁側で、ぼけーっと外を見ている日が来ようとは……。 『何にもしないのなら、これ切っといてくれ』  どさりと置いた、古新聞や、裏が白い広告に片面だけ印刷されたコピー用紙、つかえる物はとことん使うというばあちゃんの声が今は聞こえない。  後五年まちゃ九十。国から金一封がもらえると話していたのに。八十六歳のばあちゃんは霊山に旅立った。  病気らしい病気もせずに来たが、やはり年には勝てなかったと、曾孫三人を抱いて彼女は涙を流したのが最後だった。 「おおばあちゃんは?」  葬儀場でおおばあちゃんを探す長女、菜々。  皆はそれを見て涙していた。  タバコ屋の小町ちゃんは半年前店先で倒れ、そのまま逝っちまった。  小さな入れ物に入ったばあちゃんを抱え、俺たちは大きな屋敷に戻ってきた。 「婆ちゃん、帰って来たぞ」 すすり泣く声が聞こえる。
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