第十話

2/3
前へ
/32ページ
次へ
まずは測量、これはプロに任せておけばいい。 ただ、道路なんかにしてしまった場合いは厄介だ。 国道になっていない分市役所はつつけば、折れる場合もある。 「ですが」 「この会社は、勝手に人の土地に道を作ったんだ、私有地にだぞ、いまさら返せとは言わないが、どうしてくれるんだ?」 俺はその一部始終をカメラに収めていく。 「また楽しそうなことをしてるな?」顔を出したのは馬場部長だ。 部長、すみません。 「何謝ることがある、社会部も乗せてもらうんだ、少し落ち着いたら、その陰で何をしでかすか、こっちはしっかり見張ってりゃいいんだよ」 そういって肩を叩かれた。 「そっちはいいがなー、こっちはどうなってる?」 「ああ、すみません、これ、お願いします」 編集長は、笑いながら、でっかいネタまってるぞと言ってくれた。 まだまだ、これからだ。 その日の夜。 白井不動産の親父さんから連絡が入る。 「いくらツーカーでもな、ちゃんとした書類は残しているはずだ、それがなけりゃ、削るなんてことはできねえ」 「じゃあ、不動産が勝手に人の土地に手を入れた証拠をつかめばいいんですか?」 まあまて。 白井さんは、婆ちゃんから預かった土地の債権書類を持って来た。 いいか?これはちゃんとしたところから作り変えてもらった最新の書類だ、古い書類だと何かが起きたとき、話にならないからと言って新しいのにしたんだ。 この書類が何か? ここを見てくれ。 そこには数字がいっぱい並んでいる。 「これは新しい数式で書かれた物だ、でもな、元の古い書類に書かれた物は、大正や昭和の初めの漢数字なんかであやふやの者もある、それをちゃんと数式化したものさ」 あやふや? 「もしかして、それをいい事に、数字の改ざん?」 そうだろうという。 でも古い書類なんてあるのか? 白井さんはこういった。 「デジタル化したら空からの空撮で一発だ、だがそれを調べるのには古いのが必ずいる」 「じゃあどこかに隠してあると?」 「俺はそう思う」 でも亡くなった元の社長さんは、それに加担していませんよね? 「どうだかな?」 どういう事ですか? 息子に代を渡した時、あまりいいうわさは聞かなかったという、白井さんは大きな建物に手を出すことはなかった、それは昔からのしがらみがあったからだそうだ。 でも上田さんは当時まだ聞き覚えのない、マンスリー(短期型の賃貸)や、保証人のいらない数週間だけ貸すことのできる賃貸物件をやり始めた人でもあるそうだ。 でも白井さんたちは必ずトラブルを抱えると反対したらしい。 でも若い者たちはそれに乗って大きな建物を手にしたという。 大きな建物? 「商店街の向こう側にそびえている高層マンションだよ」 三棟の物凄い高層マンションだ。 「でもあれ、新しいですよね」 「古いのを壊したんだ、新しいさ」 だがな、裏はあるという。 当時は、安い物件でマンスリーマンションとして首都圏に近いからな羽振りもよかったしと、バブルの時の話をしてくれた。 「これが前の建物だ、古い団地そのまんまみたいだろ?」 俺がいたところよりも古いそうだ。 白黒の写真は、古い建物を映し出していた。 短期だから金回りがよかったという、敷金礼金なしに飛びかかる若者は、その次にやってくる延滞金が、微々たる金額で払えるから住み続ける。 家賃五万で入ったとして、三年後には八万、さらに一年ごとに一万ずつ増えていき、払えなくなってやっと出ていく。 「一万、そりゃ痛いわ」 「だがその金額は大きいぞ」 まあそうだな。 土地転がしが一時はやったのはバブル期で、金回りがよかったからそう思えるだけのものがあったが、今じゃどうなんだかな? 土地転がしか―、ん?そう言えば神奈川に…。 「それで今のあれが出来たと?」 「そういう事だ、こんなご時世、新築作っても来るかと思いきや、若い時にそんな経験をしてきたんだ、ここは働くよな」と頭を差しながら、今度はチラシを俺の前に置き、虫メガネまで持ってきてくれた。 「一番下、小さくて見えもしねえ」 そこには、ローンの組み方が書かれている。 「銀行?ん?新生ローン?なんだこりゃ」 白井さんはこのローン会社に金が入り、それがこいつらや施工主に入って来るんじゃないかと話した。 銀行に行き、ローンの話を聞いたら、国で貸し付けるものと抱き合わせで安い金利会社を進めることがあるそうだ、この物件は、その会社を指定しているなと言われたそうだ。 銀行に行っても貸してくれないのか? 貸すことは貸す、ただ、この物件を買おうとするとすすめられるのがこの会社、金利を銀行と比べて出すと安いと思ってそっちを選ぶ。 「だが落とし穴があるんですね」 「そうだ」 住宅ローンは二種類ある。変動金利型と固定金利型。 簡単に言えば金利はその時によって変わるから、固定で地道に帰していくか。変動型で、返せるとき返していくかと言ったところだ。 先ずは固定型、金利の上昇に合わせ、微々たる金額を上乗せ、それをピンハネする。 「まったく」 「変動型もだがこっちはすこし多く取れる」 「でも返済金がわかるからできないでしょ?」 「金利だけだ、ローン会社と結託しているんだあるところで融通できるんじゃないかと俺は睨むがな」 ああそういう事か。 「違法ですよね」 「いや、ギリ、できる。ただ相当な会社が絡んでくるからな、小さい所だけじゃ無理だ」 小さい所… 「あー、だから」 「そう、バックにいる熊野組だ」 安い金利でも長期にすればそれなりのバクマージンが出るってことか、考えたな。あ、じゃあ、あの地主話はこれか? 「まあ、それが一つだ、今度はこれ、こっちは裁判沙汰にできるかもな」 「これは?」 この間、ばあちゃんの所に集まったひとりが、不安になって調べてほしいと持ってきた物だそうだ。 「これが写真だ。このアパートの駐車場、これがそのまんま、この人の土地だよ」 「違法じゃないですか」 ああ、だからこっちは今それにのっとった物を作り始めているという。 どういう事? ここを買った人はそれを知らずに買ったという事さというのだ。 そんな事あるんですか? その不動産を持ってきた人、それを買った不動産屋がいなければどうなる? 次に買ったところが負債を受けますよね。 そうだ、だがその前の者は? 詐欺で捕まりませんか? この世にいなくても?
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加