宝くじと幽霊

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 翌日、朝から銀行へ行き手続きをした。1週間もかからないですよ、と言われた。不動産屋にも出向き、アパートを探した。妙に安くて何かいわくありそうな物件は避けた。そこそこいい部屋があったので敷金礼金を納め、引越しの準備をしていたある夜。  またあの幽霊が現れた。  その姿を見て俺は驚いてしまった。  物凄く高級そうな新しい着物を着ていた。髪の毛も真っ黒に染め直して格段に美しくなっていた。 「どうしたんだ、そのかっこうは」 「ふふふ、お金持ちの男が貢いでくれたのよ〜今日はお別れを言いに来たのさ〜」  いやいや、別におまえと付き合ってたわけではないからな、そう思いながら俺は気がついたら幽霊に見惚れているような気がした。 「もう会うこともないだろうね…なんだかんだ言っておまえさん、寂しいんじゃないのかい?」  幽霊はちょっと悪戯な笑顔を見せる。 「そ、そんなことはないだろが、バカだな」  俺は冷たいそぶりを見せようとしたが、ぎこちなかった。 「この前はお金のおねだりしちゃって悪かったわね、でももう必要ないからさ。金の切れ目は縁の切れ目、なんてね。ま、そんなわけでとりあえず挨拶しに来ただけだから帰らせてもらうよ…お世話様でした」  そう言って消えていこうとする幽霊に俺は思わず声をかけた。 「ちょっと待って」  そして引越し先の住所を書いた紙を幽霊に渡した。 「今度ここに引っ越すんだよ、よかったら来てくれないか」  幽霊は紙切れを見て妖艶な笑みを浮かべた。 「ずいぶんと遠いわね…まあ、考えておくわ」  幽霊は俺を焦らすような目つきをしながら消えていった。    俺はあの幽霊に完全に惹かれてしまったようだ。  まああの幽霊の表情を見る限り、まんざらでもないのだろう、きっとまた来てくれるだろうと俺は思った。  そしてひとつ聞いておけばよかったと思うことがあった。  あの幽霊がもし俺の新しいアパートへ来て、それなりにいい雰囲気になって一夜を共にするのなら、それは洋風な高級ベッドがいいのか、やはり和室に敷いた布団がいいのかということだった。
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