夕暮れ時に会いにきて

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中学1年の冬の放課後。靴箱に手紙が入っていた。ピンク色に白い花柄の封筒。丁寧な可愛らしい字で『大島とわちゃんへ』と書いてあった。封を開け、同じくピンク色に白い花柄の手紙を広げる。 『男子の前でぶりっこしてんじゃねー!!ムカつく!!』 と、大きい字で殴り書きされていた。 私は、男子と話す時、ぶりっこしているつもりはなく、普通に接しているつもりだった。全く意識していなかった。なぜそう思われてしまったんだろう、誰がこの手紙を書いたんだろう。 この時から、男子とうまく話せなくなってしまった。話していると、ぶりっこと思われているのではないか、と意識してしまう。もしかしたら、この男子を好きだと思われてしまうのではないか…という不安にかられた。 誰にどう思われているのかを意識しすぎて、男子と話をすると頬が赤く染まるようになった。それに気づいた途端ひどくなり、男子とちょっと目が合うだけでも顔全体が真っ赤になる。赤面症になってしまった。 ひたすら男子を避ける学校生活。やはり支障が出てきて、お腹の調子も悪くなった。不登校になる勇気もなく、つらい学校生活をただただ耐えていた。 中学3年の冬の放課後。靴箱に手紙が入っている。あの、殴り書きの文字が頭に浮かぶ。白い無地の封筒に角張った字で『大島とわさんへ』とかいてある。その場で見る勇気がなく、サッと学生かばんの中に入れた。 なんだろう、なんだろう、怖い…。 帰り道の途中にある、ちいさな公園。幼い頃はよくこの公園で遊んでいた。簡単な遊具が4点。ベンチは2基。 冬の夕暮れ時、鼻先がつんと痛くなる寒さにもかかわらず、数人の小学生が元気に遊んでいる。ベンチが空いている。手紙の内容が気になってしょうがないためここで開けることにする。 白い封筒を出す。『大島とわさんへ』の文字をまじまじ見る。なんだか、男子っぽい。手が震える。寒いからか、緊張からか。 『とつぜん、手紙すいません。僕は、2組の渡辺陸と言います。大島さんは、僕のことを知らないと思いますが、1年の時から好きでした。1年の時、図書委員で一緒でした。僕はオタクなうえ、女子が苦手でうまく話せないのですが、大島さんは僕のつまらない話をきいてくれました。優しいな、と思って気になって、気づいたら好きになっていました。僕は、親の転勤で引っ越すことになりました。高校も引っ越し先のところへ行きます。なので、思いきって告白しました。対面はハードル高くて、手紙ですいません。ここまで読んでもらってありがとうございました。お元気で。渡辺陸。』 1年の時、図書委員だったのは同じクラスだった大島ゆなさんだ。大島ゆなさんは、2年にあがるタイミングで、家の事情で苗字が変わった。学年で、苗字が大島の女子は私ひとりだけになった。もしかしたら、それもあって渡辺くんは渡す相手を間違えてしまったのだろう。 「なーんだ…」 途中までは私宛のラブレターかと思ってドキッとした。ちょっとだけ、この顔の知らない渡辺くんと制服デートをする場面を思い浮かべて赤面してしまった。 渡辺くんのラブレターには、付き合ってほしいとか、連絡ください、とか書いてないあたり、自信がない男子なのだろうと思う。手紙をどうしようかと思ったが、文面が一生懸命で、なんだか捨てることが出来ない。学生鞄にそっと入れる。ベンチから立ち上がる。こどもたちは変わらず元気に遊んでいる。 空はオレンジ色よりむらさき色の配分が多くなってきて、星が1つポツンと出ていてきれいな一枚の絵みたいだ。 いつかだれかとデートするなら、町全体が夕暮れ色に染まった今のようなときにしたい。きっと赤面するだろうから…。
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