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「思ったんだけどさ、私、テスト、結構ヤバくない」
「今更?」
校門を出てから長い坂道を賢二と並んで歩く。
坂道から見える広い海が茜色に照らされていて、夕日が段々と海に近づいていく。
海を見ながら賢二に話しかける。
「てかさ、空に雲ないから、明日は絶対晴れだね」
「岬の天気占い当たったことないんだけど」
「本気じゃなかっただけだもん」
私が本気になったら、一週間後の天気ぐらいまでなら当てられそうな気がする。
「明日から本気出すってか」
「そう、それ」
私は本気になったことがない。
高校受験だってなんとなくで何とかなってしまった。
私はきっと本気になるとはどういうことなのか知らないのだろう。
「賢二はさ、今回のテスト、ガチだよね」
「まあね。俺、目標あるから」
「やっぱ、大学いくの?」
「行きたい」
図書室の机の上に広げられていた賢二のノートには書き込みがたくさんあった。
私と違って、賢二は頑張っている。
そんなことを思っていたら、私の結った黒髪を熱い潮風が吹き抜けた。
「風つよ!」
「やっぱ、今日のデートなしにしない?」
「はあ? 今になって? もうすぐ海だぞ」
「冗談だって。本気にしてんの」
今言ったこと、そんなに面白くもなかったかもな。
なのに、賢二は楽しそう。
変なの。
そんなことを思いながら、ほほ笑みながら乱れた前髪を直した。
賢二を弄んでは、やれやれと呆れられる毎日の繰り返し。
そんな日々が楽しいまでもいかないけれど、退屈でもなかった。
私もなんだかんだ毎日を楽しんでる。
でもそれじゃ、ダメなんだ。
きっと、そうなのだから。
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