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「なんか綺麗」
「お、久しぶりのまとも発言」
久しぶりってなんだ、久しぶりって。
「私はいつもまともだよ」
「鏡見てから言ってくれ」
「毎朝見てますよーだ」
そっぽを向いた私は小さくため息をつく。
「でもほんとに綺麗だな。こんな感じで夕日見るとか、なんつーか、おとぎ話にありそう」
いや、ないから。
こんな出ちゃいけないものが出そうな公園で、夕日見る話とか絶対ないから。
君、おとぎ話読んだことないでしょ。
おとぎ話はもうちょっとメルヘンだから。
赤ずきんから出直してきて。
「もっかい言って」
「この感じ、おとぎ話っぽい」
「その感じ、おとぎ話読んだことないっぽい」
「ばれたかー」
賢二は、探偵にあっさり正体を突き止められた犯人のように驚いてみせた。
「岬、読書嫌いだったのに、最近、本読むよな」
「私、これからは文学少女としてやってくの」
「似合わね」
言ってろ。
私は、前髪をいじらしくいじる。
「賢二はさあ、こんなとこで油打ってていいの?テスト、今回は頑張ってんでしょ」
「別にいいよ。それにもうすぐだし」
「もうすぐって?」
「見てればわかる」
そう言って賢二は、海の水面をじっと見つめた。
水面に一体何が起こるっていうの?
そんなことを思いながら、賢二のまねをして水面に目をこらす。
そして、日が水平線の彼方に消えて、砂浜が黒に染まる。
「ほら、見えてきた」
「なにこれ」
水面に蛍の光のような筋が無数に煌めいて、海の中を飛び回る。
砂浜近くの水面がほのかな黄色に染まって、まるで小説の中のワンシーンみたいだ。
高校の近くにこんな場所があったなんて知らなかった。
今まで見たことない幻想的な景色に心を奪われる。
「夏の時期になると夜光虫が綺麗に光るんだよね。これ、見せたかった」
「よくこんな場所知ってたね」
「そりゃもちろん。岬と違ってデート場所詳しいし」
賢二の顔には、俺すごいだろとでも言わんばかりに自信が満ち溢れている。
「それ、マウント」
「悪いかよ」
「別にいいけど」
でも、悪くないような気がするのは、たぶん気のせいじゃない。
私はきっと、賢二と一緒にいるこの時間が楽しいに違いない。
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