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私たちはなんとなく青い
「岬。帰ろ」
「え?」
うたた寝の世界に入り込んでいた私の意識を、賢二の澄んだ声が連れ戻す。
「だからさ、もう帰ろ」
「帰るって?」
賢二は、「ほら」と言って、図書室の壁の時計を指し示す。
時計の針は午後六時を指していた。
「え、嘘。もうこんな時間」
「だから帰ろっていってんじゃん」
そうだ。
私たちは高校の図書室で期末試験のテスト勉強をしていたのだ。
でも途中で勉強に飽きた私は、カバンから読みかけのファンタジー小説を取り出した。
んでもって寝落ちして、そこから先は現実世界に意識がない。
あーあ。
またやってしまった。
「岬さあ。ほんとに試験大丈夫?明日だぞ、試験」
「んーまあ、いけるでしょ」
「その根拠の無い自信はどこからでんだか」
賢二はそう言ってやれやれといった様子で笑った。
夏を焦がすような夕日が窓から差し込んで、図書室に放課後の雰囲気を醸し出す。
「だから、もう帰ろって。今日は海でデートすんだろ」
「あーそうだったかも」
「かもってなんだ、かもって」
「まあ、悪く思わないで」
私は、前髪をいじりながら賢二をニヤニヤ見つめる。
大して面白くもないけど、いつもの流れって感じでなんとなく笑ってみせる。
はいはいもう慣れましたよ、と顔に書いてある賢二を尻目に、机の上に出したままの白紙のノートと数学の教科書をカバンにしまう。
白紙のノートを見てふと思った。
私がなんとなく送っている日々は、この余白に書くには退屈すぎる。
白く澄んだノートのページが、まるで私の心の余白のように思えた。
何も書かれていないノートに何かを書き足そうにも、気力が足りない。
このノートは、まるで私そっくりだ。
そう、私そっくり。
そう思った矢先に、下校のチャイムが鳴る。
「ほら、急げって。学校閉まるぞ」
「あいよ」
私はカバンを肩にかけて、賢二と並んで図書室を出た。
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