金銭論争 ―零れ桜のもとで活劇したあの日―

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金銭論争 ―零れ桜のもとで活劇したあの日―

 オレは、高校2年の竹内(たけうち) 陣太郎(じんたろう)。 たった今、2つ上の兄、竹内(たけうち) 陣助(じんすけ)のアパートへ訪れたところだ。  それにはわけがある。  ――4年前の4月。 オレは、兄にわけあって5000円を借りようとした。  しかし、決して裕福ではない家庭の兄から借りようとしても、それは推薦(すいせん)に失敗するばかり。  やがて兄は腹を立て、5000円を巡り 零れ桜のもとで決闘が始まった。  オレは、腕を構えながら渋々 発した。 「ッフ。 あんちゃん、たった5000円だぜ。 どちらが上か、白黒つけようじゃねぇか」  カッコつけて言うと、兄は目を見開き、絶対に貸さないという執念に燃えていた。 「5000円? そんなの自分の金で用意しろよ! オルァ!」  兄のストレートパンチを避けると、オレは華麗にドロップキックを放った。 「早く諦めろ。 血が滴る前にな! ゴルァ!」  そう吐き捨て、兄のスイングパンチがオレの顎に直撃した。 砕け散るような痛みが走る。  奥歯が一本 ポロッと落ち、口からはポタポタと血が垂れた。 「男は……血を流してナンボだ。 5000円くらい……!」  オレは、怒りと憎悪に身を任せ、正拳突きを放った。 兄の腹に当たり、ひっくり返るように倒れた。 「わ、わ……わかった。 ……タンスの財布から、5000円持ってけ! 絶対に返せよ。 これは約束だ」  というのが、4年前の出来事だ――。  なぜアパートに来たかというと、あの日の約束通り、5000円を返しに来た。 4年も経って申しわけない。 「あんちゃん、あのときの5000円。 返すぜ……」  と言うと、兄は難しそうな顔をした。 「それ、4年前にすぐ返しにきたよね?」
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