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「昔から負けず嫌いなところがあって……。せっかく参加するなら、良い句を作って驚かせてやろうと思ったんですよ」
「あら、そうなの? でも、あまり気負いしないで、素直な気持ちで詠んだほうが良い句ができるんじゃないかしら?」
「そういうものなんですか?」
町田がそう尋ねると、山崎のお婆ちゃんは答えることなく、ただ穏やかに笑っていた。
それを肯定と受け取った町田は、子供の頃に母親の実家に行ったことを思い出しながら一句を書き上げた。
夏の夜
川辺に光る
金の星
それを見た山崎のお婆ちゃんが「あら、素敵」と言って楽しそうに笑った。
「ホタルね」
「はい。山崎さんが『素直な気持ちで』とおっしゃったんで、子供の頃の一番の想い出を詠んでみました」
「うふふ、そう。初めてにしたら、上出来じゃないかしら?」
「本当ですか!?」
町田は興奮して、思わず立ち上がった。
「町田さん、お静かに」
俳句会の講師の先生が苦笑いしながら言うと、周囲からも笑いが起こった。
「す、すいません!」
町田は平謝りして座り直すと、改めて自分の句を見つめた。
(俳句か。おもしろいかもしれない)
ようやく『趣味』と言えるものに出会ったかもしれないと、町田は少しばかり心が踊っていた。
───おしまい
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