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最近では、サラリーマン川柳などがよくテレビや新聞で紹介されることもあり、町田も目にする機会はあった。だが、それはあくまでも『川柳』であり、『俳句』とは似て非なるものだ。
町田だって、俳句が「五・七・五」の17音で構成されていることと、必ず季語を入れなくてはいけないことくらいは、学校の授業で習っていたから知っている。
だが、『夏』の季語だけでも様々なものがあるし、何より17音で「何が言いたいのか」を表現しなくてはいけないのだ。町田は、筆を止め考えこんだ。
(うーん。『夏の夜』じゃ普通すぎるかな? でも、これが一番しっくりくるし……)
町田が『あーでもない、こーでもない』と唸っていると、隣からクスクスと笑う声が聞こえてきた。
笑っていたのは、お向かいの一軒隣に住む山崎さん(町内では『山崎のお婆ちゃん』と呼ばれている)で、「あら、失礼」と言って言葉を続けた。
「町田さん、今日初めてでしょ? そんなに難しく考えなくていいのよ」
「はあ。せっかくだから、良いものを作りたくて……」
町田がそう言うと、山崎のお婆ちゃんは「あら、そう?」とちょっと不思議そうな顔をした。
「奥さんに無理やり参加させられたって聞いていたけど、少しは興味を持ってくれたのかしら?」
「ああ、いや……」
そんな話まで伝わっているかと少々驚きながら、町田は書きかけの短冊に目を落とした。
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