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浅宮と過ごす時間は楽しくて、気がつけば外はすっかり暗くなってしまっていた。さすがに帰らないといけない時間だ。
今は浅宮とふたりで大きな陸橋を歩いている。これを渡り終えたら駅だ。
「み、三倉……あのさ」
浅宮に声をかけられ、隣を歩く浅宮のほうに視線をやる。
浅宮は、やっぱりかっこいいよな……。こいつの見た目に弱点なんかない。頭の先から足の先まで完璧だ。
でも、浅宮がモテる理由が浅宮と一緒に過ごしてみてわかってきた。ビジュアルがいいからモテてるだけだと思っていたけど、きっとそうじゃない。浅宮は優しいし面白いし、すごくいい奴だ。実は性格がいいからモテてるのかもしれない。
「バカなこと言ってるってお前は笑うと思うけど」
「なに?」
「れ、練習したい……」
「え? ここで? 何を?」
「あの……。手を繋ぐ……練習……」
「えっ!!」
おい! 待てよ!
まぁわかるけど。そういうことほど初めての時どうしたらいいのかわからないって気持ちはわかるけど……!
浅宮は左手でそっと俺の右手に触れた。浅宮の手は俺より大きくて指が長いことに今さら気がついた。
浅宮はそのまま俺の手を握り込んでくる。
なんでだろう。これは練習だってわかってるのにドキドキする。
「三倉、俺、今日お前と一日過ごせてすごく楽しかった」
少しギクシャクした感じだけど、ふたり手を繋ぎながら暗闇から明るい駅の方角へと、歩いていく。
「また、俺とこうやって会ってくれる?」
正直俺も楽しかった。また浅宮と一緒に出かけたいと思った。
「いいよ。またデートの練習がしたくなったら付き合うよ」
これは練習。浅宮が好きなのは有栖で、こうやって手を繋いでいるのだって、浅宮が俺のことを好きでやってることじゃない。そう俺は自分に言い聞かせる。
「うん。練習でいい。なんでもいいからまた遊ぼうな」
浅宮がとびきりの笑顔で俺を振り返った。
うわ、ヤバい。
こいつの悩殺スマイルにやられて浅宮に引き込まれそうだ。
そしてさっきからふたり握った手を、浅宮はぎゅっと固く握って離さない。
浅宮は男だ。そんなことはわかっているのにこんなにドキドキさせられるなんてあり得ない。
俺と有栖は違う。でも、浅宮なら男同士だとしても有栖を陥落させられるかもしれないなんて思った。
だってなんか、俺、浅宮のこと……。
浅宮はすごい。やっぱりお前はデートの練習なんて必要ないよ……。
でも、練習は要らないなんて浅宮に教えたら、自信がついた浅宮はすぐにでも有栖に告白するんだろうか。
そしたらもう俺とはこんなことしてくれないよな……。本命とデートをするに決まってる。
「きょ、今日の浅宮のプランは良かったと思うけど、有栖は人気があるからさ、もう少しだけ俺で練習してから告白したらどうかな」
「うん、そうする」
良かった。あとちょっとだけ浅宮と一緒にいられそうだ。
いやいや、ほっとする場面じゃない。
浅宮の恋を応援するんだよな。
なんで俺、浅宮の足を引っ張ってるんだよ……。
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