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「三倉、お前軽いなぁ!」
浅宮は自転車をビュンと飛ばしてる。慣れた通学路だろうから道はしっかり頭に入ってるんだろうけど。
さっきから俺の視界は浅宮の背中だ。広くてどこか頼りがいのある背中。
ちょっとだけ、浅宮に不審に思われない程度にそっと背中に頭を寄せてみる。
スンと匂いを嗅いでみる。ほんの一瞬だけど、特別な香りがした。
——浅宮にもっと近づきたい。浅宮に触れてみたい。
浅宮と恋人同士だったら、こんな時ぎゅっと浅宮に抱きつけるのにな。
俺は目の前の浅宮にそっと手を伸ばす——。
ヤバいヤバい! そんなの駄目だ! あんまりこんなことしてると浅宮に変に思われると俺はまた姿勢を直す。
「三倉、ちょっと寄り道していい?」
俺の心の葛藤なんて全く気がついていない浅宮は、振り返って呑気に話しかけてきた。
「いいけど、どこ行くの?」
「あー、決めてない」
「は?」
なんだよ寄りたいところがないのに寄り道したいって……。
「だって三倉ともう少しだけ一緒がいいからさ。あ! そうだ! 川見よ、川。俺の中学の近くの川。で、あっそうそう有栖の話、聞かせてくれよ」
お前の中学の近くの川に行ってなんになるんだと思ったが、浅宮はただ有栖の話が聞きたかっただけなんだな。
浅宮は口をひらけばいつも有栖、有栖。こいつにはきっと俺なんか見えてない。俺と話しながらも頭の中は有栖のことでいっぱいなんだろうな。
「うん、わかった。有栖の話をするよ」
それでもいい。浅宮とふたりでいられるなら。こんな時間だって、浅宮が告白したら終わりになっちゃうんだから。
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