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浅宮は俺が落ち着くまで黙ってずっとそばにいてくれた。
頃合いを見計らって「三倉って見てて飽きないよ」と声をかけてきた。
「泣いたり笑ったり、俺、そういうの好きだ」
浅宮はとことん優しいな。俺を励まそうとしてそんなこと言ってくれてさ。
「はは……自分の気持ちもコントロールできないなんて情けないだけだよ……」
俺は立ち上がる。夕日も沈んだところだし、あんな醜態を晒したあとじゃ浅宮と一緒いてもなんか恥ずかしい。
「帰る?」
「うん」
「もう大丈夫?」
「うん」
「わかった」
浅宮も俺に合わせて立ち上がった。
そして自転車のところまで戻ろうとしたとき、暗くなって足元が見えなくなっていたせいで、草むらで何かに足をとられる。
「うわっ!」
よろけた俺を浅宮がサッと手を伸ばして支えてくれる。
「ありがと浅宮」
お礼を言って浅宮から離れようとしたのに、浅宮がそれを許さない。
え、なんで。
なんでこいつ俺の身体から手を離さないんだよ……。
「あ……さみ、や?」
どうしたんだと浅宮の顔を見る。
浅宮は、思い詰めたような顔で俺を掴んだまま。
「あっ!! 悪ぃ!」
浅宮は急にパッと俺から離れた。その様子はいつもの浅宮に戻っている。
「ったく三倉、ボヤボヤしてんなよ! 何やってんだ!」
浅宮は笑い飛ばす。
「ご、ごめんっ! 俺昔からどんくさいんだよな……」
俺も笑って誤魔化す。
「三倉、怪我はない?」
「うん。大丈夫」
「もしかして、俺のおかげ?」
浅宮はやったら嬉しそうに笑ってる。
「うぜー」
その通りだよ。ひとりだったらブザマに転んでいたことだろう。
「俺、三倉の役に立てた?」
「なんだよ急に。恩着せがましいな」
「俺がいてよかった?」
「まあね」
浅宮。お前がいないと寂しいに決まってるじゃないか。
「そっかそっか。俺も少しは報われるわ」
そうだなお前はいい奴だ。全力で報われるんだぞ、協力してやるから。
はぁ……。
好きだと気づいた途端に失恋した気分だ。
なんで浅宮なんて好きになっちゃったんだろう……。
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