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そうだ。
俺はずるいことを思いついた。何言ってんだよと一蹴されると思うけどそれでも試してみたい。最後の悪あがきだ。
「ねぇ浅宮」
「ん?」
浅宮がこっちを向いた。
「浅宮ってキスしたことある……?」
「えっ!!」
浅宮の身体がビクッと反応し「ないよっ、ないないっ! 相手もいないのにそういうことできないだろ……っ!」と、ものすごく慌てている。
やっぱり。浅宮は今まで誰とも付き合ったことがないと言っていた。それなら——。
「そっ、それならさっ。れ、練習したほうがいいんじゃないかな……」
言ってて恥ずかしくなってきて話じりが小声になっていく。
「そんなのいつ誰と……」
浅宮は途中でハッと何かに気づいたようだ。俺の言わんとしていることが伝わったのかもしれない。
デートの練習も手を繋ぐ練習もした。だったらキスだって練習してくれてもいいんじゃないか。
浅宮、頼むから騙されてくれ! 俺のために、最後にいい思い出くれないかな……。
「おっ、俺もしたことないからさ。今後のためにどんな感じか知っておきたいしさっ」
思いついた適当な理由を浅宮にぶつけてみる。
「あっ、浅宮だって、いきなり本番でかっこ悪いところ見せたくないだろ?」
俺は説得にかかるが、浅宮は困った顔をしてる。
だよな。
さすがにそれはないよな……。
どうせダメだとわかってたし。
浅宮は俺のこと、バカな奴って思ってるんだろうな……。
「三倉はそれでいいの?」
浅宮は真面目な顔で俺を見た。もしかしてこいつ、俺の提案を受け入れてくれるのか……?
「う、うんっ!」
俺はコクコクと頷く。練習だってなんだっていい。浅宮とそういうこと、してみたい。
「じゃあ、してみる……?」
浅宮が俺に迫ってきた。さっきの卒アル事件でお互い離れていたのに、四つん這いの姿勢で近づいてきて、床に座っている俺の顔をじっと見つめてくる。
自分から言い出したくせに、いざそんなことをすると思うと緊張してきた。浅宮の切なそうな瞳のキラキラも、見ているとぎゅっと胸が締め付けられる。
なんだか浅宮に悪いな……。練習にかこつけて最後の思い出に、俺は浅宮とキスがしたいだけ。そんなあざとい俺の気持ちなんて知らずに浅宮は——。
「三倉。俺にどこまで許してくれる……?」
えっ、どこまでって?!
「唇同士はナシ? 俺、お前のどこにキスしていいの?」
「なっ……!」
ちょっと待て。俺が唇でもいいとか言ったら浅宮はまさか……。
「させてよ。キスの練習。俺、三倉としてみたい」
浅宮は気がついたら俺のすぐ隣にいる。それも身体が触れ合うんじゃないかというくらいの距離。
「あっ、浅宮こそ、いいの……?」
浅宮だってファーストキスみたいだし、さすがにそれは好きな人としたいんじゃないか……?
「うん。もちろん。そういうことしたら、少しくらい俺のこと意識してくれるかもしれないし……」
はっ?! どういう意味だ……?
「三倉。ここにキスしていい……?」
浅宮が人差し指でそっと俺の唇に触れた。
本当にいいのか?! 俺は嬉しいけど、浅宮は?!
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