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戸惑いもあるけれど、俺は何も言わずに目を閉じる。
浅宮を受け入れたいから。浅宮がしたいと思ってくれるなら、して欲しいから。
浅宮の両手が俺の頬を包み込む。
それから柔らかくてあったかい浅宮の唇が俺の唇に触れた。
その瞬間、なんとも表現し難いものがブワっと身体中を駆け巡った。まるで、稲妻みたいな何か。
「三倉……どう? 少しは俺にドキドキしてくれた?」
なんでそんなこと訊くんだよ。さっきからドキドキしっぱなしだよ! と思ったが、そうだった、浅宮にしてみれば相手をドキドキさせるような甘々なキスの練習をしているだけだったなと大前提を思い出した。
「うん。いいと思う……」
思わず本音がこぼれる。浅宮がほっとしたような、嬉しそうな笑顔を浮かべた。
しまった。浅宮に自信を持たせてしまったら、浅宮は有栖に告白を決めちゃうかもしれないのに。
「男同士でも、恋愛できるかなとか、思ってもらえた……?」
そうだよな。友達と恋人の違いって、キスとか抱き合うとかそういうことまで許せるかってとこだよな。
俺は浅宮が好きだよ。練習でもキスしてもらえて泣きそうなくらいに嬉しい。
有栖はどうだろう。有栖も浅宮を好きになるかな。ふたりが付き合うことになったら、今日のこのキスのことは黙っておかなくちゃ。これはノーカウント、ただの練習だけれどそれでも有栖は良くは思わないだろうから。
有栖はいいな。いつもみんなに慕われて。俺はたくさんの人に慕われなくてもいいから、浅宮に想われたい……。
「み、くら……? なんで涙目なの? 俺、調子に乗り過ぎた? してみたらやっぱり気持ち悪かった……?」
浅宮も泣きそうじゃないか。さっき「いい」と感想を伝えたのに、なんでそんなこと言うんだよ。
初恋なんて実らない。だから、練習とはいえキスまでしてもらえた俺はきっと幸せなんだ。
「そんなことないよ。ありがとう、浅宮」
だからこのキスを思い出に浅宮のことは諦めなくちゃ。
そんなことを思ったら余計に目が潤んでくるよ。
「浅宮。俺、もう帰るね。じゃあっ」
「えっ!!」
浅宮は俺を引き止めようとしていたけど、その手を振り切って、俺は浅宮の部屋から飛び出した。こんなみっともない顔、浅宮に見せられないから。
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